2024.06.25
目次
こんにちは。
動物病院 京都 四条堀川 獣医師 尾関康江です。
「猫は腎臓病になりやすいって聞いたけど、実際はどうなの?」
「定期健診でちょっと腎臓が悪いですねって言われた」
「うちの子シニア猫になったけど食餌はこのままで大丈夫かしら?」
このような疑問を抱えていないでしょうか?
今回は、
について解説していきます。
ぜひ最後までお読みいただき、猫の腎臓病について知っていただけたら幸いです。
腎臓の役割は
です。これらの働きが何らかの原因でできなくなることを腎臓病といいます。
腎臓病は慢性腎臓病と急性腎臓病に分かれますが、今回は慢性腎臓病に絞って解説します。慢性腎臓病は徐々に腎臓の機能が低下する病気で、3ヶ月以上腎臓がダメージを受け続け機能が低下した場合に慢性腎臓病と診断されます。慢性腎臓病は、腎臓の2/3の機能が失われるまで症状や血液検査の異常が出ません。そのため発見される時には進行している場合が多いです。
慢性腎臓病のはっきりとした原因は分かっていません。加齢と共に少しずつ腎臓がダメージを受ける場合と、急性腎臓病になり回復したものの腎臓への負担が残り慢性腎臓病になる場合があります。
以下原因となりえる疾患について代表的なものを解説します。
腎臓がゆっくり萎縮していき、尿細管と呼ばれる場所に炎症や線維化が起こり、機能が低下していく病気です。多くの高齢猫で見られる病態です。
多発性嚢胞腎やアミロイドーシス腎症といった腎機能に障害を及ぼす病気です。
ヒマラヤン、ペルシャ、アメリカンショートヘアといった猫種は多発性嚢胞腎を発症しやすいとされています。左右の腎臓内に嚢胞と呼ばれる液体を含む袋状のものが形成されます。加齢と共に嚢胞の数は増え大きくなります。腎臓の正常な組織が嚢胞に置き換わることで腎機能が低下し、腎臓病を発症します。
アビシニアン、ソマリといった猫種はアミロイドーシス腎症を発症しやすいとされています。アミロイドは炎症などによって生じる異常蛋白です。これが体の臓器に沈着し、機能障害を起こします。猫での発症はそこまで多くありませんが、好発傾向の猫種は注意が必要です。
病原性の弱いコロナウイルスが突然変異を起こし、病原性の強い猫伝染性腹膜炎ウイルスとなります。腎臓を含む体の様々な臓器に化膿性肉芽腫という炎症の塊をつくります。これに伴い腎臓は大きくなり、炎症によって腎臓がダメージを受けます。急に体調を崩す場合が多いですが、治療にて回復した後も腎臓病が続くことがあります。
猫の腎臓腫瘍はあまり多くありませんが、リンパ腫、腎細胞癌が代表的なものとしてあげられます。他の腫瘍と同様に腎臓が腫瘍細胞で悪さされることで腎機能が低下します。
先天性腎疾患で生まれつき腎臓の発達が悪く、腎臓の形が異常になります。幼少期からお水を飲む量が多く、不妊手術や去勢手術などで病院を受診した際に発見されるケースが多いです。確定診断は腎生検が必要ですが、超音波検査で腎臓のサイズが大きかったり、腎臓の構造異常が見られます。
慢性腎臓病の病気の進行によってステージ分類されます。ステージ分類によって症状が少しずつ異なります。
症状は全く見られず、血液検査での異常値はまだ出ません。尿検査でおしっこが薄かったり、おしっこ中に蛋白が出ることがあります。また超音波検査で腎臓の構造に異常が見られる場合もあります。腎臓の機能は33%程度に低下しています。
最初の症状である「多飲多尿」が見られます。腎機能が落ちてくるとおしっこを濃縮できなくなるため、薄いおしっこを大量にするようになります。このことによってお水をよく飲むようになります。他の一般状態は普段と変わらず元気、食欲もある猫がほとんどです。腎臓の機能は25%程度に低下しています。
老廃物や有害物質が腎臓から排出できなくなり体に溜まるようになります。これにより口の中や胃が荒れ、口内炎や胃炎が起こります。飼い主さんも気づきやすい症状として食欲低下、元気消失、嘔吐があります。
血液検査で腎機能評価である尿素窒素(BUN)やクレアチニン(Cre)値が上がっています。
また、腎臓は赤血球をつくるエリスロポエチンというホルモンを分泌しています。腎機能が落ちることでホルモンが分泌できず貧血になります。腎臓の機能は10%程度に低下しています。
尿毒症がさらに進み症状も重くなります。病院や自宅での治療がないと生命が維持できなくなります。腎臓の機能は5%以下に低下しています。
腎臓の機能は一度失われると残念ながら元に戻ることはありません。
ことを目標に、治療を行います。
各ステージによって治療内容は異なりますが、以下一般的なものを説明します。
腎臓への負担を軽くするために、主にリン、タンパク質、ナトリウムを制限した食餌が推奨されます。血液中のリンが高いと腎臓病の進行を早めたり、吐き気をもたらしたり、カルシウムと結合して組織に石灰沈着を起こすためです。腎臓病食が苦手な猫にリンや消化管内窒素物を吸着してくれるサプリメントもあります。
慢性腎臓病では飲水しても脱水傾向になります。脱水改善と体内で溜まった毒素の排出を目的に補液を行います。皮下補液(背中の皮膚の中に輸液剤を注射する方法)と静脈点滴(入院下で血管に直接輸液剤を注射する方法)があります。また積極的な飲水を促すために水飲み場(器の数)を増やしたり、器の材質を変えたりすることもおすすめします。食餌に少し水を加えたりウェットフードを取り入れることも飲水量の増加につながります。
腎臓の機能が落ちると、体はこれを補うために血圧を上げて腎臓への血液量を増やそうとします。必要以上に血圧が上がると心臓や目の奥(網膜)に影響が出るため、降圧剤を使用する場合があります。
腎臓は血をつくるホルモンを分泌していますが、腎機能が落ちるとホルモンが出にくくなります。また食餌量が減ると食餌からの鉄分が不足し、貧血になります。これを防ぐためにホルモン注射をしたり、鉄剤を投薬します。
腎臓の数値が上がることで、吐き気や口内炎といった症状を伴います。症状の緩和を目的として胃薬や食欲増進剤を使用することがあります。また血液中のカリウム(ミネラルバランスの1つ)が下がることで筋肉低下をもたらすことがあります。点滴剤の中に入れたり、経口カリウム剤を使って補充します。
幹細胞を利用して腎機能を維持する再生医療を取り入れている動物病院もあります。
慢性腎臓病は症状が出た時にはかなり進行している事が多いですが、早期発見、早期治療により進行を遅らせたり、症状をやわらげたりすることができます。
慢性腎臓病は基本的には治る病気ではありません。場合によっては数年単位でねこさんの状態と向き合いながら治療を続けていく必要があります。その中で、「病院に行くのがストレスじゃないかな?」、「お薬を飲ませるのが難しい」など多くの悩みや不安を抱える方もいらっしゃると思います。
その際はお気軽に獣医師までご相談下さい。愛猫やご家族にとって最善の治療を選択できるように尽力いたします。
どうぶつ病院 京都 四条堀川
獣医師 尾関康江