2025.02.04
膵炎という病名はあまり聞きなれないかもしれませんが、愛犬が急に吐いたり、元気がなくなった場合この病気の可能性があります。
急性膵炎は適切な治療を必要とする疾患であることから、今回は犬の飼い主様に
について解説します。
ぜひ、最後までお読みいただき、愛犬との健康生活にお役立て下さい。
膵臓は胃や十二指腸と隣り合う位置にある臓器で、2つの大きな役割をもっています。1つは消化酵素を分泌し食べ物を消化する働き、もう1つは血糖値をコントロールするホルモンの調整をする働きです。
膵炎とは本来膵臓内では働かない消化酵素が、膵臓内でも働きだしてしまい膵臓自体のタンパク質を消化してしまう病気です。
膵炎は病気の進行によって「急性膵炎」と「慢性膵炎」の2つに分かれます。今回は進行が早く、迅速な治療が必要な急性膵炎について解説します。
急性膵炎の明らかな原因はまだ分かっていませんが、以下の要因がリスクになると考えられています。
食事は一般的な危険因子だとされています。高脂肪の食事は膵臓に負担をかけ、消化酵素が過剰に分泌されることで膵炎を引き起こしやすくなります。
実際に唐揚げや串、フライなど脂肪分の高い人間の食べ物を与えたり盗み食いした後に発症することが多いですね。
肥満の犬は膵炎の発症が多いと言われています。
遺伝的に脂質代謝異常がある犬種で発症が多いとされています。
ヨークシャー・テリア、ミニチュアシュナウザー、コッカースパニエルなどは他の犬種よりもリスクが高いと言われています。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)や甲状腺機能低下症、糖尿病といった内分泌疾患をもつ犬も膵炎になる危険性が高いとされています。
急性膵炎は消化器に関連する症状を中心に突然症状が現れます。主な症状には以下のようなものが認められます。
頻繁に吐き、食べ物や胃液を戻すことがあります。
お腹を触られたり、抱っこされるのを嫌がることがあります。腹痛が強い場合は、「祈りのポーズ」と呼ばれる背中を丸めるようなポーズを取ることもあります。
普段好む食べ物に全く興味を示さなくなります。
動きが鈍くなり、ぐったりした状態が続きます。
軽度だと無症状のこともありますが、元気消失や食欲不振といった他の病気でも見られるような漠然とした症状のこともあります。
進行すると、以下のような症状が認められます。
水のような便や血便が出る場合があります。
頻繁な嘔吐や下痢により、体内の水分が失われます。
膵炎による炎症が全身に影響を及ぼすことで、発熱が起こることがあります。
炎症が重度になると低体温になることもあります。
膵炎が重症化すると、体の様々な臓器に十分な血液が流れなくなります。全身の臓器や組織に十分な血液が届かなくなってしまうため、臓器の機能障害や意識障害などが起こります。
急性膵炎が重症化すると、以下のような全身的な合併症を引き起こす可能性があります。
播種性血管内凝固とは、本来出血したところにだけ働く血を固める反応が全身に働き、体のいたるところで血が固まるのと同時に、血が止まらなくなる(出血)状態を言います。
膵臓で起こった炎症が心臓、肺、腎臓といった周りの臓器にまで波及し、働きが著しく低下した状態を指します。命に関わるほど重篤な場合もあることから症状が長引いたり、重い場合はなるべく早く動物病院を受診することをおすすめします。
残念ながら急性膵炎を治すお薬というのは現時点では存在しません。膵臓を休ませながら症状を緩和し、合併症を防ぐことを目的に行われます。
代表的な治療内容を解説します。
輸液療法の目的は食欲不振、下痢や嘔吐で脱水した体の状態を改善させることです。脱水や炎症が強い場合は入院管理下にて血管に直接点滴剤を入れます。症状が軽度の場合や、状態が改善した後は通院治療にて皮下補液を実施します。
以前は絶食が勧められていましたが、吐かなくなったら低脂肪食を少しずつ食べさせて、膵臓に栄養を供給して回復を促す、という方法がとられるようになりました。実際、人でも早期の栄養サポートは、重度の膵炎患者の治療を成功させるための重要な要素であると考えられています。
食事は膵臓への負担を減らすために脂質を抑えたものが推奨されます。急性膵炎の症状が落ち着いた後にも適応されます。
症状に合わせて薬剤を使用します。
腹痛を抑えるために鎮痛薬を使用したり、嘔吐の抑制するために制吐薬を使用します。合併症の予防の観点から抗菌薬を使用する場合もあります。
ステロイド剤は過去には膵炎のリスク因子とされていましたが、ステロイドの使用により治療成績が上がったという報告もあることから必要に応じて使用されます。具体的には症状が重い場合や回復が遅い場合に短期間使用されます。
近年、白血球の働きを抑えて過度な炎症を防ぐ新しいタイプの抗炎症薬も使用できるようになりました。
急性膵炎は、膵臓の炎症により消化器を中心に症状が出る病気です。重症な場合は命に関わることがあることから、急に食欲がなくなった、どこか痛いのか震えているなど気になる症状がある場合は早めに当院までご相談下さい。
監修:CUaRE 動物病院京都 四条堀川