橈骨と尺骨は、前肢の手根関節(手首)と肘関節の間にある骨です。橈骨と尺骨の骨折は、小型犬で多く発生し、橈骨、尺骨とも同時に骨折する場合がほとんどです。地面に前肢を着くことで生じた荷重は、手根関節を介して橈骨と尺骨に伝達されます。その荷重のほとんどは橈骨が支えており、尺骨は骨端部(骨の端)で荷重を少し支えている程度です。このため、橈骨と尺骨の骨折の治療は橈骨を治癒させることが目的になります。
治療法は主に、外固定、外科療法(手術)があり、骨折の種類、患者の状態、ご家族の意向などを総合的に判断して決定していきます。
外固定とはいわゆるギプスなどを用いた固定をいいます。人と違って、動物は安静にするのが難しいため、外固定で治療できない場合がほとんどです。特にトイプードル、チワワ、ポメラニアンなどのトイ犬種は、外固定での治療は難しく、外固定で治療した場合の変形癒合や癒合不全などの合併症(手術における不都合な出来事)の発生率は75%との報告があります。以下の場合は外固定で治療を行うことがあります。基本的には外科療法を推奨いたします。
骨折の治療に用いられている手術方法は様々あり、骨折の種類によって使い分けています。橈骨と尺骨の骨折で用いられる手術方法のほとんどは、プレート固定と創外固定です。
どの手術方法で行っても、10%くらいの確率で様々な合併症(手術における不都合な出来事)が起こると報告されています。合併症には、プレートやスクリュー、ピンなどのインプラントの破損やルースニング(体内に埋没した人工関節が何らかの原因で周囲の骨との固着性が弱くなり、経年的にゆるみをきたすこと)、変形癒合、癒合遅延、癒合不全、細菌感染、成長板の障害、神経麻痺などがあります。また、手術時には剃毛を行うため、術後に毛の色が変わったり、薄くなったり、毛が生えてこなかったりすることがあります。
プレート固定、創外固定どちらの手術方法であっても、骨が癒合する(骨がくっつく)期間は、通常1-3ヶ月です。骨がある程度癒合したら、スクリューやピンを抜去していきます。
スクリューやプレートが折れたり、抜けてきたりすることがあります。
骨が正常でない形に癒合して(くっついて)しまっている状態。変形がひどい場合は、絶えず足を引きずって歩くようになることがあります。
骨は通常1-3ヶ月で癒合します。骨が癒合するのにそれ以上の時間がかかっている場合のことをいいます。
骨がまったく癒合してきていない状態のこと。癒合不全になると再手術が必要になります。最悪の場合は、断脚(足を切断すること)が必要になることもあります。
細菌感染が起こると骨の癒合が遅れたり、スクリューが緩んできたりすることがあります。最悪の場合、骨融解(骨密度が低下)が起こることがあります。
成長板とは1歳未満の成長期の動物に見られる骨が成長する場所のことです。骨の端に存在し、骨折したときや手術中に損傷することがあります。損傷した成長板は成長することが出来なくなり、骨が変形して成長する場合があります。
ほとんどの場合、骨折時に神経の損傷が起こることによって生じます。スクリューが神経に当たることでも起こることがあります。
皮膚を切って、筋肉の下にプレートを入れ、スクリューで骨とプレートを固定する手術方法です。
成長期(1歳未満)の症例では骨の成長を阻害する可能性があるため、骨の癒合が認められたら、スクリューとプレートは抜去する方がいいと言われています。また、1歳以上であってもプレートを置いておくことで骨密度が低下することがあるため、スクリューを数本抜去するほうがいいと思われます。スクリューやプレートの抜去に関しては、ご家族と相談の上、決定させていただきます。
スレッドピン(ネジ山がある針金)を骨に入れ、皮膚の外でピンを固定し、骨がズレないようにする手術方法です。
骨が癒合するまでは、基本的にはケージで安静にして下さい。ゆっくり歩くことは大丈夫ですが、走る、ジャンプ、飛び降りる、飛び乗る、階段を上り下りなどは控えて下さい。
術後はレントゲンを撮影し、経過をみていきます。通常は、術後2週、4週、8週、12週くらいの間隔で検査を行います。
術後に合併症がおこると、絶えず患肢を挙上(地面に足をつけなくなる)するようになります。起立時に少しだけ挙上することは問題ないことがほとんどです。気になることがありましたら、すぐに当院までご連絡下さい。
レントゲン写真や検査データ、動画などを学会発表や本の執筆、ホームページなどに使用する場合があります。予めご了承ください。