膝蓋骨は大腿骨の滑車溝と呼ばれる窪みに収まっており、その窪みから外れてしまう症状のことを膝蓋骨脱臼と言います。人で言うと膝のお皿部分であり、お皿部分に収まっている膝関節が外れてしまうようなイメージです。
膝蓋骨脱臼は英語で「patellar luxation」と呼ばれており、整形外科分野において症例数が多いことから、略して「パテラ」と呼ばれることもあります。膝蓋骨脱臼には「内方脱臼」と「外方脱臼」があり、文字の通り内側に脱臼するか、外側に脱臼するかに区分されます。
犬の発症率が高い病気で、主に「内方脱臼」が多く発症されます。内方脱臼の好発犬種は、ポメラニアン・チワワ・トイプードルなどの小型犬が多いです。反対に外方脱臼の好発犬種は、ゴールデンレトリバーやセントバーナードなどの大型犬によく見られます。
猫の場合は、内方脱臼が多く発症しますが、発症率は少なく稀な症例です。膝蓋骨脱臼は、脱臼と整復を繰り返すことで関節炎を引き起こしてしまい、激しい痛みを伴う場合があるので、早期発見がとても重要です。
発症の原因は2つあり、生まれつき膝関節の筋肉や骨の形状に異常がある先天性と、高いところからの転落・車や自転車との交通事故などの外傷によって、膝関節に異常をきたす後天性に分けられます。
肥満や老化によって、膝関節の負担がかかっている場合も膝蓋骨脱臼の発症は高いです。
原因が判明している場合は、早期の対応が必要となります。
軽症の場合は症状がほとんど出ることがなく、日常生活に支障をきたすことがありません。
見た目での判断も難しく、健康診断で初めて見つかるというケースも多くあります。また先天性の場合は、日頃から脱臼と整復を繰り返していることが多く、慣れてしまって痛みが出ていないこともあります。痛みが伴ってくると、脚をスキップして歩く・ケンケンして歩く・パキパキと音が鳴る・立ち上がれず倒れたままになるといった症状があります。
膝蓋骨脱臼の主な診断方法は、触診や歩行検査です。
触診方法は、手で脛骨を内側もしくは外側に回旋させながら、膝蓋骨を内側もしくは外側に押して、変形部分を確認します。
病気の進行具合によって、グレードⅠ〜Ⅳに区分されます。骨格変形や関節炎の症状がひどい場合は、レントゲン検査を行い、詳しく診断します。
下記の分類は必ずしも正確であるということではなく、グレードⅠの症状で痛みが激しく出る子もいます。
分 類 | 詳 細 |
---|---|
グレードⅠ | 膝蓋骨を手で脱臼させることができる。離すと元の位置に戻る。 |
グレードⅡ | 歩いたり走ったりすると、自然に膝蓋骨が脱臼する。手を使って整復することができる。 |
グレードⅢ | 常に脱臼している状態であるが、整復することができる。 |
グレードⅣ | 常に脱臼している状態で、整復不可である。 |
膝蓋骨脱臼の治療は「保存療法」と「外科療法」のどちらで治療を行うか選択します。
もちろん症状を完治させることが望ましいですが、動物の年齢や健康状態によって様々なリスクがあり、ご家族様の意向もお伺いして決定します。
痛み止めの処方薬、運動制限や食事管理によって痛みの緩和を行う治療法です。
症状を完治させることが目的ではなく、痛みを和らげることを目的としています。環境改善・生活改善・薬の処方の3つに分けて、保存療法による治療を進めていきます。
階段や段差のあるところを避ける。
自宅に滑りやすいフローリングがあれば、カーペットを敷いて転倒を防ぐ。
肥満の動物は膝に負担が大きくかかるので、食事管理を徹底して減量させる。
足回りの毛をこまめにカットして転倒を防ぐ。無理しない程度の散歩を日常的に行い、筋肉の低下を防ぐ。
痛みが強く出ている場合は、鎮痛剤を使用して歩行ができる程度にする。
関節軟骨を保護するために、注射薬やサプリメントで脚の状態を管理する。
膝蓋骨脱臼を完治させるためには、外科手術による治療が必要です。
膝蓋骨が滑車溝に収まるように、溝を形成させる手術を行います。大腿部の筋肉と膝関節の動きを真っすぐに再建させることで、脱臼の整復を行います。手術によって、膝関節を正常な動きに戻して、外科的に回復させることが目的です。
外科手術によって治療を行った場合、膝蓋骨脱臼を引き起こしている脚と正常な脚の筋肉差が生じてしまいます。
歩き方や立ち方のバランスがおかしくなっている可能性があり、調整のためのリハビリが必要となります。脚の筋肉量を増やすためのトレーニングや散歩、柔らかい筋肉を形成させるための食事管理やマッサージなど、脚に関してのリハビリテーションが重要です。
動物病院 京都では、テネシー大学公式認定CCRP(Certified Canine Rehabilitation Practitioner)の資格を持った木村獣医師が、リハビリを含めた治療計画を飼い主様に提案させていただいています。手術が成功して治療が終わりではなく、日常生活に戻れて初めて治療が成功すると考えています。