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猫の混合ワクチンについて

2024.06.11

こんにちは。
どうぶつ病院 京都 四条堀川 獣医師の尾関康江です。
ねこさんの予防はどのようにされていますか?今回は予防の中でも混合ワクチンに注目してお話していきたいと思います。

ワクチンは必要なの?

ワクチンとは感染症の予防の為に実施するものです。”うちの猫は室内飼いだから必要ないのでは?”といったお声を診察でよく耳にします。実際は、ねこさん自身が外出しなくても感染症を発生するリスクはあります。それはウイルスが飼い主さんの靴裏についていたり、お外でねこさんを触った飼い主さんの手やズボン・スカートに残っていたりすることがあるからです。また、ホテルやトリミングを利用時に他のねこさんからうつる可能性もあります。

また、感染症の中にはワクチンで予防ができても治療できないものもあります。他にも、ペットホテルやトリミングを利用する際、保険に入る際に接種証明書が必要な場合があるため、ワクチン接種は推奨されます。

どんなワクチンがあるの?

ねこさんのワクチンには、全ての猫に接種すべき「コアワクチン」と感染症リスクの高いねこさんに接種検討されるべき「ノンコアワクチン」があります。

3種ワクチン(コアワクチン)

・猫ウイルス性鼻気管炎

・猫カリシウイルス感染症

・猫汎白血球減少症

4種ワクチン

コアワクチンに猫白血病ウイルス感染症を予防

5種ワクチン

4種ワクチンにクラミジア症を予防

7種ワクチン

5種ワクチンにカリシウイルスが3種類加わったもの

また単体では猫免疫不全ウイルス感染症のワクチンがあります。

基本的に室内飼いをされているねこさんは3種ワクチン、外出や感染症のリスクがある場合はそれ以上が推奨されます。ただ、どれを接種した方が良いというのはなく、ねこさんの環境や多頭飼いのねこさんの状況によっても異なりますので、獣医師とご相談下さい。またノンコアワクチンは、4種、5種、7種とありますが動物病院によって取り扱いの種類が異なりますので事前に確認をしておきましょう。

ワクチンで予防できる感染症

猫ウイルス性鼻気管炎

原因ウイルスはヘルペスウイルスで一般的に「猫風邪」と呼ばれる感染症の1つです。感染したねこさんとの接触やくしゃみ・分泌物を介して感染します。感染して3,4日程で元気や活動性が落ち、食欲も減ってきます。また、くしゃみや鼻水、結膜炎といった症状が出てきます。大体1週間程で自然に治癒しますが、こねこさんで症状がひどい場合は重症化し死に至ったり、他の細菌感染が重なると長引くこともあります。

治癒した後もこのウイルスは神経細胞の中で保有されます。このためねこさんの免疫が落ちたり、ストレスを受けたりした時に再び症状が出るので注意が必要です。

猫カリシウイルス感染症

「猫風邪」と呼ばれる感染症の1つで、猫ウイルス性鼻気管炎に似ています。感染したねこさんとの接触、外出先で感染したねこさんに触れた飼い主さんが持ち帰ることで感染します。様々な型があり、共通の症状としては元気や食欲が落ちて発熱があげられます。口の中で炎症が起きたり(口内炎)、口や舌に潰瘍ができて口臭がきつくなったり涎がひどくなる症状も特徴的です。

こちらも治癒した後少しずつウイルスを排出しているので注意が必要です。

猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症)

原因ウイルスはパルボウイルスで、子ねこさんや若いねこさんでの発症が多いです。感染したねこさんの排泄物や嘔吐物に排出されたウイルスを口にすることで感染します。この感染症の怖いところは感染力が強く、多数のねこさんが一緒にいる場所(パットショップ、保護施設、繁殖施設)や多頭飼育のお家では一気に感染が広がることがあります。また、通常の消毒薬では死滅しないところです。初期は元気や食欲が落ち、発熱するなど他の感染症と区別が付きにくい場合があります。名前の由来でもありますが、体の中で戦う兵隊(白血球)が一気に減って免疫が下がることで抵抗力が弱くなってしまいます。また、腸でウイルスが増えると吐き戻し(嘔吐)や下痢といった症状が出ます。

猫白血病ウイルス感染症(FeLV)

白血病の原因となる他、貧血、口内炎、腎臓病、流産といったものがあげられます。感染したねこさんの唾液、涙、尿や糞に含まれたウイルスを摂取することで感染します。唾液中に含まれるウイルスが多いので、他にはグルーミングや喧嘩、食器の共有なども感染経路となります。感染してから発症まで様々な症状が見られます。

初期は元気や食欲が落ちたり発熱など他の感染症と似ていますが、貧血を起こしたり、リンパ節が腫れたり(リンパ腫)、白血球が減ったりと病院受診が必要になるような重い症状が出る場合があります。

ワクチンを打っても全ては防げず、感染した場合は3,4年以内に発症するねこさんが7割程です。また、同居猫さんが陽性の場合、隔離することが一番推奨されますが、自宅の環境の問題で難しい場合はウイルス検査を行った上でワクチン接種が勧められます。

猫クラミジア症

クラミジア(ウイルスでも細菌でもない病原体)が原因で「猫風邪」の1種です。感染したねこさんとの接触が一番感染しやすいですが、他には鼻水やくしゃみ、母子感染もあります。主に結膜炎が見られ、それに伴い目脂、鼻水、くしゃみといった症状が出ます。初期は片目に症状が出て進行すると両目に出ます。この感染症単体では症状が出にくいですが、こねこさんは他の感染症も感染する確率が高いの注意が必要です。

外出する機会が多いねこさんや多頭飼育のお家では接種が推奨されます。

猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)

原因ウイルスは免疫不全ウイルスで、ヒトのエイズウイルスの仲間ですがヒトに感染することはありません。ねこさんとの接触や喧嘩で感染します。初期は元気、食欲が落ちたり発熱を伴います(急性期)。一旦症状が落ち着きます(無症状期)が数年経つと、軽い症状が出た(エイズ関連症候群期)後、免疫が落ちてエイズを発症(エイズ期)します。

こちらも外出する機会が多いねこさんには接種が推奨されます。

ワクチンプログラム

子ねこさんの場合は
初年度
1回目 8~10週齢
2回目 1回目接種の3、4週間後

以降
1年に1回追加接種/抗体検査(以下参照)
—————————————–
成ねこさんの場合は、
初年度 
1回目 病院受診時
2回目 1回目接種の3,4週間後

以降
1年に1回追加接種/抗体検査(以下参照)

毎年必要?

従来のワクチンプログラムでは1歳以降は下がった可能性のある免疫を補う為に1年に1回追加接種が推奨されていました。ただ近年、WSAVA(世界小動物獣医師会)という獣医師による動物福祉の為の世界的組織が、コアワクチンに含まれる感染症は1年以上抵抗力が持続すると発表しました。この為1年に1回必ず接種が必要というわけではありません。1年に1回追加接種する場合と抗体検査(※)でワクチンの必要有無を判断します。ただし、これには条件があって、定期的にペットホテルを利用したり、多頭飼育されていたり、外出の機会があるねこさんは1年に1回追加接種が推奨されます。

※抗体検査
体の中にどれくらいの免疫が残っているかを調べる検査です。副反応が強い体質のねこさんやワクチン接種の間隔をできるだけ空けたいと思われている飼い主さんにとって、次いつ接種をしたら良いか分かる目安になりますので有用な方法になります。

大事なこと

ここまでワクチンが推奨される理由や感染症についてお話してきましたがいかがでしたでしょうか。「近いうちにワクチン接種に行こう!」「お家のねこさんにワクチンを接種したら安心!」と思われたかもしれません。そう思って頂きたくて書いているのですが、1つ大事なことがあります。ねこさんの場合ワクチンをうっても病気にかかることがあります。「え?それじゃあワクチンって・・・」と思われたかもしれません。具体的に説明しますと、パルボウイルスはワクチンで免疫を獲得するととても強固なものです。対して猫ウイルス性鼻気管炎と猫カリシウイルス感染症は、一旦感染して治癒してもウイルスが完全にいなくなるわけではないのです。この為、一部の感染症においては予防ではなく、ねこさんが感染した時に症状を軽くしたり、他ねこさんへの感染性をできるだけ防ぐためにウイルスが排泄される量を減らすことを目的としています。

ワクチンアレルギー

ワクチンの成分に対してアレルギー反応を起こすことがあります。 

  • 即時型アレルギー反応

接種後すぐに反応が出るもので命の危険性がある場合があります。急な血圧低下や呼吸困難といった症状です。ねこさんで顔が腫れることはあまりありません。

  • 遅延型アレルギー反応

接種後時間が経ってからの反応で数日後に出る場合もあります。元気や食欲が落ちたり、注射を打った部位を痛がったりします。一時的に熱が出ることもあります。

まとめ

ワクチン接種をすると例外はありますが感染症から予防する免疫を獲得できます。また、感染症にかかった場合でも症状を軽くする効果があります。ワクチン接種を受け、健康的な食餌をすることでねこさんに快適な環境を整えてあげましょう。ヒトと同じようにワクチンを打った後体調に変化が出る場合がありますので、ワクチン接種をされる場合はなるべくねこさんが体調が良い日、午前中の受診をしてあげましょう。また、病気などで定期的に動物病院を受診されているねこさんは獣医師とご相談下さい。

どうぶつ病院 京都 四条堀川
獣医師 尾関康江