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犬の乳腺腫瘍|犬の乳腺腫瘍の原因、治療について獣医師が解説

2024.12.24

こんにちは。

「動物病院でお乳にしこりがあると言われたが、今後どんな経過をたどるのだろうか?」
といった不安をお持ちではないでしょうか?

今回は、犬の飼い主様に

  • 乳腺腫瘍について
  • 乳腺腫瘍の原因
  • 乳腺腫瘍の治療

について解説します。
ぜひ、最後までお読みいただき、愛犬の健康生活にお役立ていただければ幸いです。
一部、専門用語が含まれますのでご了承ください。

乳腺腫瘍について

乳腺腫瘍は、乳腺組織に発生する腫瘍です。乳腺は、左右の乳頭に沿って存在する乳汁を分泌する分泌組織で、左右5つずつ存在します。この部位に異常な細胞の増殖が起こることで発生し、良性と悪性の2種類に分けられます。メス犬の約50%の乳腺腫瘍は良性であり、残りの50%は悪性だと言われています。

乳腺腫瘍には、炎症性乳癌といって通常とは症状や治療方針が異なるタイプのものもあります。
避妊していない女の子に多く見られますが、男の子でも発症することがあります。

乳腺腫瘍の原因

乳腺腫瘍の原因には遺伝的な素因や性ホルモンの関与が指摘されています。早期の不妊手術で予防できることが分かっています。具体的には、初回発情前の不妊手術で0.5%、1回目発情後の不妊手術で8%、2~3回目発情後の不妊手術で26%まで発生率を下げられると報告があります。また高齢や肥満も発生リスクを上げるとされています。

乳腺腫瘍の症状

乳腺腫瘍の初期は無症状であることがほとんどです。触っても痛がる様子はなく、しこりが小さい場合は本人が気にすることはほとんどありません。腫瘍が大きくなるに従って徐々に症状が出てきます。

腫れやしこりの違和感

乳腺近くに硬くこりっとした塊状のものが触れます。腫瘤の数は1~複数個確認され、大きさも数mm~数cmと様々です。第4、5番目の乳腺に多く発生が認められます。大きくなるにつれて、本人も気にする様子が出てきます。

皮膚の変化

腫瘤が大きくなるに従って、皮膚が赤くなったりただれてきたりします。

悪性腫瘍の場合、腫瘤表面が崩れ出血したり、浸出液が出ることがあります。細菌感染を起こし、膿が出てくる(排膿)こともあります。

全身状態の変化

悪性腫瘍の場合、血管やリンパ管を通って他の部位へ転移することがあります。肺や肝臓などの重要な臓器に及ぶことがあり、特に肺への転移は呼吸困難を引き起こします。全身に広がると、食欲・元気が低下したり、転移臓器に関連した症状を示すようになります。

乳腺腫瘍の診断

乳腺腫瘍の診断には

  • 身体一般検査
  • 針吸引検査
  • レントゲン検査
  • 超音波検査
  • 血液検査

を行い、乳腺腫瘍の診断と臨床ステージの判定を行った上で、治療方針を決定します。

身体一般検査

腫瘍の位置、数、大きさ、筋肉への固着性を調べます。

針吸引検査

細い針を使って腫瘤の細胞を吸引し、どういった細胞が含まれるか顕微鏡で観察します。大きくは乳腺腫瘍なのか他の腫瘍なのかを調べます。乳腺腫瘍であった場合は、細胞診検査で良性腫瘍と悪性腫瘍を鑑別することはできません。

レントゲン検査

最も一般的な転移部位は、腫瘤近くの領域リンパ節と肺です。レントゲン検査で転移を疑う病変がないかを検査します。必要があればより詳細を探索できるCT検査を実施します。

超音波検査

超音波検査はお腹のリンパ節へ転移の有無や、他の基礎疾患の探索に必要です。

血液検査

全身の状態を評価し、合併症を探ります。貧血や腫瘍に随伴した高カルシウム血症が認められることがあります。一部悪性腫瘍の場合は、血液が固まる(凝固)機能に異常が出るとされていることから、凝固系検査も実施します。

ステージング

各種検査のデータを元に乳腺腫瘍のステージ分類を行い、治療方針を決定します。

ステージングには、

  • T:腫瘍の大きさ
  • N:リンパ節転移への有無
  • M:遠隔転移(主に肺)の有無

の3つの要素で構成されます。

T:腫瘍の大きさ

T1 <3cm

T2 3~5cm

T3 >5cm

N:リンパ節転移の有無

N0 所属リンパ節の組織的転移なし

N1 所属リンパ節の組織的転移あり

M:遠隔転移(主に肺)の有無

M0 遠隔転移なし

M1 遠隔転移あり

TMN分類を元に、ステージングは以下の様に分類されます。

Stage1T1N0M0
Stage2T2N0M0
Stage3T3N0M0
Stage4T1~3N1M0
Stage5T1~3N0~1M1

治療

乳腺腫瘍の治療方法は一般的に抗がん剤治療と手術が挙げられますが、抗がん剤が単独で乳腺腫瘍に効くという学術的な根拠は乏しいため、手術を優先して選択します。

レントゲン検査で転移像が見られた場合や炎症性乳癌である場合は、手術が不適となります。ただし、腫瘍が大きくなることで自壊したり、疼痛を伴う場合は生活の質を向上させる目的で手術がすすめられます。

外科手術

乳腺腫瘍の切除範囲は、腫瘍の位置、数、大きさなどにより異なります。小さなしこりが1つだけある場合は、そのしこりがリンパ節から遠い位置にある場合に限り、その部分の乳腺を1つだけ切除します。しこりがかなり大きい場合や複数のしこりが存在する場合は、左右片側の乳腺をすべて切除するとともに、周辺リンパ節を切除します。どの術式が選択されるかは、腫瘍の悪性度や併発疾患、犬の状態などを考慮して決定されますので、もしご心配な点があれば随時獣医師にご相談下さい。

未避妊の場合は、子宮や卵巣に異常をきたしていることが多く、不妊手術を行うことで卵巣・子宮の病気の予防・治療効果が期待できます。当院では、乳腺腫瘍の手術と同時に不妊手術をおすすめしています。

抗がん剤

抗がん剤はすでにステージが進行していたり、悪性度が高い場合に使用が検討されます。転移を防いだり、再発を阻止するというはっきりとした効果が立証されていないことから、治療時は獣医師との相談がすすめられます。

放射線療法

放射線の有用性はまだ確立されていませんが、術後の補助療法として使用される場合があります。炎症性乳癌や切除ができない場所のリンパ節に対して実施されます。

予後

良性腫瘍は、外科的切除により完治します。悪性乳腺腫瘍の予後を決定する因子には、腫瘍のタイプ、大きさ、潰瘍形成、臨床ステージなどがあります。

腫瘍のサイズ

腫瘍の直径が 3cm 以下の犬は、それ以上の犬に比べ明らかに予後が良好です。腫瘍の自壊が認められている場合も生存期間が短いとされています。

リンパ節転移

リンパ節転移が認められる場合は予後が悪く、報告では平均生存期間は8〜17カ月です。


炎症性乳癌

炎症性乳癌とは悪性の乳腺腫瘍の中で最も悪いがんです。犬の乳腺腫瘍全体の10%以下の発生率ですが、進行が早く予後が悪いのが特徴です。

乳腺が板状の固いしこりとなり、熱を持ち赤く腫れ痛みを伴います。また、炎症によりリンパの流れが悪くなり、後肢がパンパンに腫れて浮腫んでしまうこともあります。

手術をしても傷口がくっつかず、腫瘍細胞を増大させる可能性があるため手術は適応されません。

乳腺腫瘍の予防法

乳腺腫瘍は早期に不妊手術を実施することにより、発生率を大幅に抑えられます。初回発情前に行うと99.5%、2回目発情前で92%、2回目発情以降で74%の割合で乳腺腫瘍の発生を抑えることができるとの報告があります。

当院では初回発情前、概ね生後半年での実施を推奨しています。不妊手術の概要についてはこちらhttps://x.gd/A6LjBで詳しく解説していますので、そちらもぜひご覧下さい。

まとめ

乳腺腫瘍は、飼主様自身が腹部のしこりに気づかれて来院するケースがよくあります。胸からお腹にかけてコリコリとしたしこりが触れる。発情期ではないのに乳腺が張った感じがある。などといった違和感を感じられたら早めに当院の獣医師にご相談下さい。

監修:CUaRE どうぶつ病院京都 四条堀川