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犬の肺高血圧症|心疾患がある高齢の犬で注意が必要な肺高血圧症について獣医師が解説

2024.12.31

こんにちは。
「愛犬が心臓病を患っているがこの先心配なことはあるだろうか?」
「動物病院で肺高血圧症と言われたがどういう病気だろうか?」
といった疑問をお持ちではないでしょうか。

今回は、犬の飼い主様に

  • 肺高血圧症とは
  • 肺高血圧症の原因
  • 肺高血圧症の治療

について解説します。

ぜひ、最後までお読みいただき、心疾患がある高齢の愛犬のお役立ていただければ幸いです。
一部、専門用語が含まれますのでご了承ください。

肺高血圧症とは

肺高血圧症とは心臓から肺に血液を送る血管(肺動脈)の血圧が上がり、肺に血液を送りづらくなる病気です。その結果、全身に酸素がしっかりと運べなくなり、命に関わる状態となります。心臓病や呼吸器疾患、フィラリア症などが原因となることが多く、特に心臓病や呼吸器症状がある高齢の犬は注意が必要です。

肺高血圧の原因

肺高血圧症は単独で起こることは少なく、何かの病気に続発して起こることが多いとされています。

代表的な原因は、以下のようなものがあります。

先天性心疾患

動脈管開存症や心室中隔欠損症などがあげられます。これらの病気では、肺動脈に流れる血液量が増えることで肺動脈が分厚く、内腔が狭くなってしまいます。

僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁閉鎖不全症は肺高血圧症の原因として最も多く、約50%と報告されています。僧帽弁閉鎖不全症は左側の心臓(左心房-左心室)に負担がかかり、血液が流れにくくなっている状態です。その負担は徐々に、つながっている肺にも及び肺動脈の圧力が上がります。

呼吸器疾患

呼吸器に関わる肺、気管、咽喉頭にトラブルがあることで、結果的に肺動脈に負担がかかる病気が含まれます。肺の血管がダメージを受けると、肺での酸素の取り込みが悪くなり、血液中の酸素が少なくなります。肺での酸素の取り込みが不足すると、肺の血管が収縮し、肺動脈圧が高くなります。肺炎、肺線維症、肺腫瘍などがあげられます。

血栓症(フィラリア症を含む)

血栓が肺動脈に詰まることが背景にあります。詰まった血栓の影響で血流が悪くなり、肺動脈にかかる圧が上昇し、肺高血圧症になります。血栓だけではなく肺の血管に寄生する犬糸状虫(フィラリア)も血栓と同じ機序で肺高血圧をもたらします。

その他

その他、肺動脈を圧迫するような腫瘍やホルモン疾患なども肺高血圧症をもたらす場合があります。

肺高血圧症の症状

肺高血圧症の症状がはっきりと出る前から、全身に十分な酸素が行き渡っていない状態が続いています。

症状の出始めでは、

  • いつもより疲れやすい
  • 動きたがらない
  • 運動していなくても呼吸が荒い

といった様子が確認されます。

進行すると、さらに酸素が行き渡りづらくなることから

  • 舌や歯茎の色が紫色になる
  • ふらつく
  • 失神する

といった症状が見られるようになります。

末期になると、右側の心臓が機能しなくなる右心不全といった状態になります。右心不全になると腹水や胸水が溜まったり、肝臓が大きくなることでお腹が張った様に見えます。

突然倒れてそのまま亡くなることも少なくありません。

肺高血圧症の診断

肺高血圧症の正確な診断には心臓カテーテル検査が必要ですが、この検査には全身麻酔が必要です。このため犬ではほとんど行われることはなく、

  • 身体一般検査
  • レントゲン検査
  • 超音波検査
  • 血液検査

を行い、総合的に判断します。

中でも心臓超音波検査が重要となります。肺高血圧症があると心臓の右側(右心系)に負担がかかります。

(画像は肺高血圧症の犬の超音波画像です。肺高血圧症になると心臓の右側の部屋(右心室)が拡大し、左右の部屋を分けている心室中隔が平坦になります。)

(画像は肺高血圧症の犬の超音波画像です。心臓の右側にある右心房と右心室の間で、血液が逆流していることを示しています)

肺高血圧症があれば血液検査やレントゲン検査などを行い、原因追及をしていきます。

(肺高血圧症の犬のレントゲン画像です。心臓と胸骨との接地面積が広いほど右心室の拡大を示しています。)

肺高血圧症の治療

肺高血圧症の治療は原因となる病気の治療を優先して行います。原疾患の治療反応や犬の状態に応じて、肺血管を拡張させる薬が使用されます。肺高血圧症は肺動脈の血圧が上昇してしまった状態なので、肺血管拡張剤はこの血圧を下げることを目的に使用されます。

肺高血圧症の予後

肺高血圧症の予後は基礎疾患によって様々ですが、一般的には悪いとされています。内科的治療に一時的に反応したようにみえても、診断後数日から数ヶ月で亡くなってしまう例があります。その一方で、薬によく反応し1〜2年生存できる場合もあります。

運動や興奮により失神する危険性があるため、なるべく安静にし早期に治療開始することが大事だとされています。

まとめ

初期症状に気がつくことは難しいですが、「散歩の時にあまり歩かなくなった」や「寝ている時間が増えた」といった症状で受診される方が多くみられます。また、「失神」の症状で来院されるケースもあります。少しでも気になる症状がある場合には早めに当院の獣医師にご相談下さい。また定期的な健康診断を受けることで病気の早期発見にもつながりますので、うまく活用しましょう。

監修:CUaRE 動物病院京都 四条堀川