2024.11.26
目次
こんにちは。
CUaRE どうぶつ病院京都 四条堀川 獣医師 尾関康江です。
「飼い猫が糖尿病の治療を受けているがもう少し詳しく知りたい」
「最近、飼い猫がすごくよくお水を飲むが何か病気だろうか?」
といった悩みをお持ちではないでしょうか?
今回は、猫の飼い主様に
について解説します。
猫でよく見られる病気ですので、ぜひ、最後までお読みいただき知っていただければ幸いです。
一部、専門用語が含まれますのでご了承ください。
糖尿病とは血液中のブドウ糖である「血糖」が増えすぎてしまう病気です。
血糖値を一定に調整するインスリンに問題が生じることが原因です。
猫ではシニア期で多く発生しますが、若い年齢でも発症することがあるため注意が必要です。
インスリンは膵臓で分泌されるホルモンの1つです。
食事をすると栄養素の一部は糖となって腸から吸収されます。糖は体にとって大切なもので常に血液中を流れあらゆる組織や臓器に運ばれます。組織や臓器までたどり着いた糖は血液中のインスリンの力を借りて、細胞に取り込まれます。取り込まれた糖は体を活動させるためのエネルギー源です。インスリンは細胞の扉を開ける鍵のような役割を担っています。細胞の前まで到達した糖はインスリンの作用により速やかに取り込まれ、血液中にあふれることなく一定の範囲で維持されています。
糖尿病は1型と2型の2種類に分かれます。
インスリン依存型と呼ばれ、インスリンを分泌する膵臓の細胞が壊され自分でインスリンを作ることができません。1型糖尿病の原因には自己免疫が関与しており、治療にはインスリンの投与が必要になります。
インスリン非依存型と呼ばれ、肝臓や筋肉などの細胞のインスリンに対する反応が鈍くなります。インスリンの効きが悪くなると、糖を上手く取り込めなくなります。2型糖尿病の原因には生活習慣が関与しており、治療にはインスリンが必要になります。治療開始後、体の代謝を正常に戻りインスリンが反応するとインスリン投与が必要なくなることもあります。
猫では2型に似たタイプの糖尿病の発生が多いとされています。
特に、
が原因で2型糖尿病を発生することが多いですね。
糖尿病の猫には様々な症状が見られます。時系列に沿って症状を解説していきます。
糖尿病の初期は目立った症状がなく気づきにくいことも多いです。兆候として多い症状は以下の通りです。
たくさん水を飲んで、たくさんおしっこをするという多飲多尿の症状が認められます。血液中のブドウ糖は、本来腎臓で濾過され必要な分は血液に戻ります。糖尿病ではこの処理が追いつかず、ブドウ糖がどんどん尿に排泄されたくさんおしっこをします(多尿)。結果、体が脱水して水を飲む量が増えます(多飲)。
栄養分となる糖が全身の細胞に取り込まれないと、体はどうにかして栄養分を取り込もうとします。食欲が増して食事量が増えます。
細胞に糖が取り込まれない状態が続くため、食べる量は増えるのに痩せていきます。
尿中の糖が細菌の餌となり膀胱炎にかかりやすくなります。免疫力が低下し、他の感染症や皮膚病にかかりやすくなります。高血糖の状態では、病原体を倒すための白血球の働きが弱くなり、病原体を倒すための抗体が産生しにくくなるためです。
糖尿病が進行すると顕著な症状が認められ、状態によっては命を脅かすこともあります。代表的な症状は以下のようなものが認められます。
糖尿病が進行するとかかとをつけて歩いたり、ふらつきながら歩いたりします。
体が栄養分を取り込めなくなると、次第に元気や食欲が落ちていきます。
毛並みも悪くなります。自分でグルーミングすることが少なくなるため、毛はぱさつきやつれたように見えます。
病状が進行すると、血液中に有害物質が増えます。それに伴い消化管も影響を受け、嘔吐・下痢が認められます。
「糖尿病性ケトアシドーシス」という危険な状態に至る可能性があります。神経障害、意識障害、呼吸困難など命を落とす恐れもあり、入院下にて集中治療が必要になります。
糖尿病性ケトアシドーシスの解説については別ブログをご覧ください。
糖尿病は主に稟告、血液検査、尿検査で診断します。血液検査で血糖値を、尿検査で尿糖、ケトンの有無を評価します。猫は緊張や興奮に伴い血糖値が上がりやすいため、高血糖がストレスによるものなのか、糖尿病によるものか判定が難しい場合があります。判断がつきづらい場合は、過去1~2週間の平均血糖値を測定しマーカーを測定し評価の参考にします。
猫の糖尿病の治療は主に血糖値のコントロールになります。代表的な治療を解説していきます。
インスリン注射は、上手く働いていない血糖値のコントロールを目的に行われます。
インスリンは基本的に自宅で1日1〜2回の注射で投与されます。インスリンの効き方には個体差があります。インスリンは少なすぎると効果が得られず、多すぎると低血糖を引き起こします。治療開始後は定期的にモニターを行い、獣医師と相談しながら適切なインスリンの種類や量を調整しましょう。
猫によっては、治療を初めて数週間から数か月で膵臓の機能が回復し、インスリン注射が必要なくなるケースがあります。インスリンが不要になる割合は約3割ほどです。ただ、一旦治った後に数か月~数年後に再発することもよくあります。
食事療法は高血糖状態を防いだり、急な血糖値の上昇を防ぐ目的で大事な治療の1つになります。
をバランスよく含まれる食事が望まれます。
食物繊維は、食物の胃から排泄を遅らせる働きがあり、糖の吸収が穏やかになります。糖の吸収が穏やかになると、食後の急激な血糖値の上昇を抑制することができます。
炭水化物は血糖を大きく上昇させます。食事中の炭水化物が控えられたものがすすめられます。
体を動かすためには筋肉が必要です。筋肉はエネルギーとして血糖を消費します。筋肉はたんぱく質から作られているため、たんぱく質が減ると筋肉はつくられなくなり消費される血糖は少なくなります。結果、血糖値が下がりにくくなりますね。また、筋肉はブドウ糖を貯めておく役割があります。筋肉が減るとブドウ糖を貯めておけなくなり、血糖値が上がってしまいます。
猫によっては療法食を食べない子もいます。きちんと食事を取るということも大事なので難しい場合は、獣医師と相談しながらすすめましょう。併発している病気がある場合は糖尿病の治療が後回しになることもあります。合わせて飼い猫に合った食事を検討していきましょう。
糖尿病はインスリンの調整や合併症の治療など注意が必要な病気の1つです。きちんと治療をすれば健康な猫と変わらず寿命を全うする猫も多くいます。水を飲む量が増えたり、食べているのに痩せるなどの症状が出ている場合は早めに当院の獣医師にご相談下さい。
CUaRE どうぶつ病院京都 四条堀川
獣医師 尾関康江