犬の椎間板ヘルニアは当グループにおいても非常に多い症例の一つです。
脊椎(せきつい)の椎骨(ついこつ)の間にあるクッションの役割をするものが椎間板です。犬の椎間板ヘルニアは、その椎間板が何らかの理由により飛び出してしまい、脊髄を圧迫することで起こる病気です。
椎間板ヘルニアは約80%が3〜7歳で発症するといわれています。哺乳類には、頸椎(頸の骨)が7個、胸椎(胸の背骨)が13個、腰椎(お腹の背骨)が7個あります。椎間板ヘルニアは、頸椎、胸椎、腰椎の中でも第2-3頸椎、第12-13胸椎、第13胸椎–第1腰椎の間で好発します。
椎間板ヘルニアにはハンセンⅠ型とハンセンⅡ型の2種類あり、椎間板を構成する成分のうちどの部分が飛び出たかによってタイプ分類をすることができます。
一部を除き、すべての脊椎は椎間板と関節突起で連結されています。椎間板が伸び縮みすることで、体幹部に適度な屈曲・伸展・回旋が生じ、スムーズに動くことが可能になります。
椎間板の構造は、外側にある線維輪(コラーゲンを含んだ成分)と中心にある髄核(ゼラチン状のもの)で構成されています。線維輪が割れて、髄核が脱出した状態の椎間板ヘルニアをハンセンⅠ型、線維輪が変形して、脊髄側に突出した状態の椎間板ヘルニアをハンセンⅡ型と呼びます。逸脱または突出した椎間板によって、脊髄が圧迫されることで、脊髄の損傷や浮腫が起こり、脊髄障害が発現します。
線維輪が割れて、髄核が脱出した状態の椎間板ヘルニアです。
犬の場合はこのハンセンⅠ型が多く、軟骨異栄養という体質をもつ犬種(ダックスフンド、ビーグル、シーズー、ペキニーズ、トイプードル、ウェルシュ・コーギーなど)に好発します。その中でも特に多いのがダックスフンドです。
線維輪が変形して、脊髄側に突出した状態の椎間板ヘルニアです。
加齢が原因で発症することが多く、成犬や老犬に多い症例です。
椎間板ヘルニアは様々な症状が認められます。代表的な症状は、元気がない、足がふらつく、歩けないなどです。治療法には、保存療法と外科療法があります。どちらの治療を行うかはわんちゃんの状態とご家族の意向によって決定します。胸腰部椎間板ヘルニアの代表的な外科療法は、片側椎弓切除術(ヘミラミネクトミー)です。片側椎弓切除術とは、下記の写真の様に片側の椎体(骨)を削って、脊髄と椎間板ヘルニアを露出し、ヘルニアを除去する手術です。
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椎間板ヘルニアには進行状況に沿ってグレードがあり、グレードが高くなるにつれて重症化していきます。
椎間板ヘルニアの中で一番軽い状態です。神経の機能は正常で痛みがあるだけの状態です。
抱きかかえるなど背中・背骨または首や腰を急激に動かしたときに「キャン!」と鳴いたり、登り降りの運動を嫌がったりなど、背中を痛がるような症状がでます。
後ろ足の力が弱くなり、ふらふら歩いたり、足先をすりながら歩いたりします。
グレード3以上になると、症状が重くなり、椎間板ヘルニアの中でも重度な状態と分類されます。
4本足では動かすことができなくなるため、歩け無くなったり、後ろ足を引きずって前足だけで歩いている状態です。
自分で排尿ができなくなります。膀胱に尿がたまった状態になるため、ぽたぽたと尿を垂れ流すようになります。ただ多少感覚は残っているため、強い痛みなどには反応します。
もっとも重度の状態で、ここからの回復は難しくなります。
完全に麻痺してしまい、どんなに強い刺激でも痛みを感じなくなります。時間の経過とともに神経へのダメージもより深刻になるため、可能な限り早期に外科手術をお勧めします。
ダックスフンド、ビーグル、シーズー、ペキニーズ、トイプードル、ウェルシュ・コーギーなどの遺伝に大きく関係のある軟骨異栄養犬種(骨格が形成される前に骨に障害が起きやすく、身体的に特徴が出やすい犬種)に好発し、特にダックスフンドは他の品種に比べて10倍、椎間板ヘルニアを発症する危険性が高いといわれています。
椎間板ヘルニアはある日突然発症して、急速に悪化する場合があります。
いつもと様子が違うなど、少しでも変わったことがあれば、いつでもご気軽に当院までご相談下さい。