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犬の老化は何歳から?プレシニア期に始めたい健康管理と老化サインチェックについて獣医師が解説

2025.11.04

犬の老化サインに気づいていますか?

「うちの子はまだまだ若くて元気いっぱい!」そう思っていても、気づけば犬の毛に白い毛が混じっていることはありませんか?いつまでも子犬のようにかわいい愛犬ですが、実は人間の4〜7倍のスピードで年齢を重ねています。

私たち人間の「老化のサイン」といえば、白髪が目立つようになったり、小さな文字が見えにくくなったり、関節が痛むようになったりと、40代後半頃から徐々に現れてきます。では、犬の老化サインはいつから、どのような形で現れるのでしょうか?

ちょっとした変化に早く気づいてあげることが、愛犬の幸せで健康な老後生活につながります。

本記事では、見逃してはいけない老化のサインと適切な対応方法について詳しく解説します。

犬の老化はいつから始まる?プレシニア期とシニア期の違い

多くの飼い主様が「シニア期」として認識している年齢は、実はすでに老化が進行している状態です。プレシニア期から体調管理などシニア期に向けての準備をすることで、快適にシニア期を過ごすことが可能となります。

プレシニア期

シニア期に入る前の準備期間として、体型別に以下の年齢が目安となります(1)。

  • 小型・中型犬:6-9歳
  • 大型犬:5-6歳

シニア期

シニア期は本格的に体の老化が始まる時期で、大体の目安は以下の通りです(1)。

  • 小型・中型犬:10歳以降
  • 大型犬:7歳以降

犬の老化開始時期は体格により大きく異なります。これは寿命と老化速度が異なるためです。大型犬は小型犬よりも早く老化が進行し、寿命も短い傾向にあります(1,2)。例えば、グレート・デーンのような超大型犬の平均寿命は5-6年であるのに対し、ヨークシャー・テリアやダックスフンドのような小型犬は12年以上生きることができます(2)。

見逃しやすい初期の老化サイン:プレシニア期に注意すべき変化

「まだ若いから大丈夫」と思いがちなプレシニア期ですが、実はこの時期から老化の兆候は現れ始めています。

気づきやすい変化には以下のようなものがあります。

眼が白っぽくまたは青味がかって見える

犬の目に現れる変化は、最も気づきやすい老化サインの1つです。

核硬化症(加齢性変化)

水晶体の中心部が圧迫されて硬くなり、薄く白く見えます。6歳以上の犬で一般的に見られ、10歳までに50%以上の犬が核硬化症の兆候を示し、13歳以上ではほぼすべての犬が影響を受けます(3)。核硬化症は視力にはほとんど影響しません(3)。

白内障(病的変化)

水晶体のタンパク質が変性し、真っ白に濁ります。進行すると失明の可能性もあります。核硬化症とは異なり、白内障は視力に重大な影響を及ぼします(3)。

被毛・皮膚の変化:「毛ツヤが昔と違う…」

年齢を重ねるにつれて、ふわふわだった自慢の毛並みがパサパサに、口元や目の周りに白髪が目立つようになります。

具体的には、以下のような変化が見られます。

  • 全体的な毛艶の低下
  • 首や横腹の被毛が薄くなる
  • マズル(鼻口部)や目の周囲の白髪
  • 鼻の色素が薄くなる(黒→茶色など)
  • 皮膚のハリがなくなり、たるみが出現

運動能力の変化

いつもピョンと飛び乗っていたソファを躊躇する、階段を嫌がる、散歩に行きたがらないといった症状が出ます。

筋肉量の減少と関節機能の低下を示す重要なサインです。加齢に伴う筋肉量の減少(サルコペニア)では、特に後肢の筋力低下が最初に見られることが研究で明らかになっています(4,5,6)。

睡眠時間の延長:「よく寝るようになった…」

名前を呼んでも反応しない、夜だけでなく昼間もよく眠るようになったら老化のサインです。

「動かない、頭を使わない時間」が増加すると、認知症発症のリスクが高まります。実際、犬の認知機能障害では睡眠-覚醒サイクルの変化が早期段階でより多く見られることが報告されています(8)。

その他のサイン

その他にも以下のようなサインが見られることがあります。

食事の変化

年齢とともに食べるスピードが遅くなることがあります。これは単なる食欲不振ではなく、歯や顎の筋力が弱くなったり、代謝の変化によるサインです。以前は勢いよくカリカリと音を立てて食べていたドライフードも、時間をかけてゆっくりと咀嚼するようになります。

また、硬いおやつやガムを避けるようになったり、今まで大好きだった食べ物に興味を示さなくなることもあります。これらの変化は、口腔内の不快感や歯周病の進行を示している可能性があります。

行動・性格の変化

年齢を重ねると、新しい物事への好奇心や探求心が低下してきます。また、飼い主様への依存度が高くなり、いつもそばにいたがるような行動が目立つようになることもあります。視力や聴力の低下により外界への不安が増し、頼れる飼い主様への愛着がより強くなっているためです。

老化現象?それとも病気?見分けるポイント

犬に変化が現れたとき、「これは自然な老化現象なのか、それとも治療が必要な病気なのか」迷われると思います。実際、老化と病気の境界線は非常に曖昧で、獣医師でも診察なしでは判断に困る場合が多くあります。

ただ、いくつか見極めるポイントがあるので、解説します。

正常な老化現象として考えられる変化

犬に見られる自然な老化現象で、急激でない限り経過を追える変化です。

外見の変化では、白髪の増加は最も代表的な自然な老化現象です。特にマズル周辺や眉毛部分から始まり、徐々に全体に広がっていきます。また、被毛のツヤが以前ほどなくなったり、わずかに薄くなったりするのも正常な変化です。

活動レベルの変化として、軽度の活動量低下は筋力の自然な衰えによるものです。以前ほど長時間遊ばなくなったり、散歩のペースがゆっくりになったりするのは、年相応の変化と考えられます。

生活リズムの変化では、睡眠時間の延長も代謝の低下による自然な現象です。若い頃より1-2時間多く寝るようになるのは、エネルギー消費量の減少に伴う正常な適応です。

病気が疑われる症状

以下の症状が見られた場合は、単なる老化ではなく病気の可能性が高いため、なるべく早く動物病院を受診してください。

急激な体重変化は最も注意すべき症状の1つです。2週間で体重の5%以上の減少、または急激な体重増加は、糖尿病、甲状腺疾患、腫瘍などの可能性があります。特に食欲があるのに痩せてくる場合は、要注意です。

多飲多尿も重要な病気のサインです。1日の水分摂取量が体重1kg当たり100mlを超える場合や、普段の2倍以上水を飲むようになった場合は、慢性腎臓病、糖尿病、クッシング症候群などの可能性があります。薄い色の大量の尿を頻繁にする場合は特に注意が必要です。

呼吸異常では、安静時の呼吸が速い(1分間に40回以上)、口を開けてハアハアしている、咳が続く、舌や歯茎の色が紫がかっているなどの症状は、心疾患や肺疾患の可能性があり緊急性が高い症状です。

その他の緊急症状として、突然の食欲不振が3日以上続く、嘔吐や下痢を繰り返す、歩行困難や起立困難、意識がぼんやりしている、けいれんを起こすなどの症状も、すぐに受診が必要です。

判断に迷った時は「経過観察」より「早期相談」

犬の変化に気づいたとき、「もう少し様子を見てから…」と思いがちですが、高齢犬の場合は早期の相談が何より重要です。病気の進行は若い犬より速く、手遅れになるリスクが高いためです。

「これくらいで病院に行っても良いのかな?」と思うような小さな変化でも、獣医師にとっては重要な診断の手がかりになることがあります。

早期発見で差がつくシニア期の健康管理

犬の健康寿命を延ばすために最も重要なのは、プレシニア期からの継続的な健康管理です。病気になってから治療するのではなく、病気を予防し、早期発見することで、犬の生活の質を大きく向上させることができます。

日常観察のポイント:飼い主様ができること

犬と毎日一緒に生活している飼い主様だからこそ気づける変化があります。以下のポイントを意識して、日常的な健康チェックを習慣にしましょう。

体重管理

理想は週1回、体重を測定することです。最低でも月1回の測定をしましょう。体重の増減は多くの病気の初期症状として現れます。1週間で体重の2~3%以上の変化があった場合は注意が必要です。

食事量

毎日の食事量チェックでは、犬がいつもどのくらいの量を食べているかを把握しておくことが重要です。普段の半分以下しか食べない日が2日続いたら、獣医師に相談することをお勧めします。

歩き方

歩き方の観察も欠かせません。散歩中の歩き方、階段の昇降、立ち上がり方、座り方などを日常的に観察しましょう。びっこや、いつもと違う歩き方は、関節疾患や神経疾患の初期症状かもしれません。

その他

その他の観察ポイントとして、排尿・排便の回数や状態、睡眠パターン、呼吸の様子、目や鼻の分泌物、皮膚の状態なども定期的にチェックしましょう。

定期健診の重要性:客観的評価

どんなに注意深く観察していても、飼い主様では気づけない変化があります。定期的な健康診断が不可欠です。

当院では年2回以上の総合的な健康診断を受けることをお勧めします。

プレシニア期では見た目には元気でも、内臓機能の低下が始まっている可能性があります。シニア期では、高齢犬は病気の進行が速いため、より頻繁なチェックが必要です。

健康診断で発見される主な疾患には、慢性腎臓病、肝疾患、心疾患、糖尿病、甲状腺疾患、腫瘍などがあります。これらの多くは初期症状が軽微で、飼い主様が気づいた時には既に進行していることが少なくありません。

まとめ

愛犬の老化は避けることのできない自然な現象ですが、プレシニア期からの適切なケアにより、その進行を緩やかにし、生活の質を維持することは十分可能です。

愛犬の老化サインに気づく3つのポイント

  • 日常の変化に敏感になる: 「いつもと少し違う」という感覚を大切に
  • プレシニア期を意識する: 体格に応じた適切な時期からケアを開始
  • 専門家との連携: 「様子を見る」より「早めの相談」を心がける

毎日一緒にいるからこそ気づきにくい変化もあれば、だからこそ気づける小さなサインもあります。愛犬が見せる「あれ?」という小さな変化を見逃さず、「まだ大丈夫」ではなく「今からケア」の気持ちで向き合うことが、愛犬の健康寿命を延ばす最大の秘訣です。

愛犬との貴重な時間を1日でも長く、そして1日でも幸せに過ごすために、今日から始められることを一つずつ実践していきましょう。

監修:

CUaRE どうぶつ病院京都 四条堀川
院長 吉田昌平

———————————————————————————————————————引用文献

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