2025.11.11
目次
猫の健康診断は法律で義務づけられているものではありません。
「元気だから行かなくてもいい」と考える飼い主様も多いでしょう。
でも実は、猫の健康診断の目的は「病気を見つけること」ではなく「病気になる前に守ること」です。
猫は体調不良を隠す習性があり、症状が出た時にはすでに病気が進行していることも少なくありません。
この記事では、猫の健康診断の必要性、年齢別の検査内容・頻度、そして受診を迷っている方に知ってほしいポイントを解説します。
猫は野生で生き抜いてきた名残から、敵に襲われないように体調不良を隠そうとする習性があります。そのため、飼い主様が異変に気づいた時には、すでに病気がかなり進行していることも珍しくありません。
猫に多い慢性腎臓病(CKD)は、10歳以上の猫の30〜40%が罹患していると言われています(1)。
腎機能の75%以上が失われるまで、血液検査の数値は正常に見えることもあり(3)、
「症状が出た時には進行している」病気の代表です。
IRIS分類によると、Stage IIbで診断された猫の生存期間中央値は約3年ですが、
Stage IVでは約3ヶ月に短縮されます(4)。
早期発見・早期治療が寿命と生活の質を大きく左右するのです。
猫は1年で人間の約4年分のスピードで年をとります(6)。特に7歳を過ぎたシニア期では、半年で人間の約2年分に相当します。
つまり、年に1回の健康診断は、人間でいえば4年間医師の診察を受けないのと同じこと。猫の寿命は人間の約5分の1であるため、理論的には10〜11週ごと(約3ヶ月)に一度の健診が、人間の“年1回健診”と同等の間隔になります(7)。
このスピード感を考えると、年2回以上の定期健診が理想的です。
「まだ若いから」ではなく、「時間の流れが速いからこそ」——早めのチェックが、未来の健康を守ります。
その子だけの「健康な時の数値」が分かります。健康診断を定期的に受けると、猫の「元気な時のデータ」が分かります。
例えば、血液検査では貧血の値や肝臓の数値、尿検査ではpHなど、いろいろな項目を調べます。「正常な範囲」というのはありますが、猫にも個性があって、その子によって違うんです。
元気な時の数値を知っておけば、「あれ? 前より少し高くなってるな」「ちょっと下がってきたかも」という小さな変化にも気づけます。まだ正常範囲内でも、変化の傾向が分かれば早めに対策できます。
健康診断は必要ないという考えもありますが、こうした「比較材料」があると、これからの健康管理がずっとしやすくなります。
生後6ヶ月までは月1回程度、定期的に病院を受診する機会があります。
主な健診内容は以下の通りです。
米国動物病院協会(AAHA)と米国猫開業医協会(AAFP)のガイドラインでは、すべての猫に対して最低年1回の健康診断が推奨されています(8)。一般的には年2回(6ヶ月毎)の健診が標準となっています(8)。
当院では、より積極的な予防医療の観点から年4回の健診をお勧めしています。
当院が推奨している、健診内容は以下の通りです。
7歳以降のシニア期では、加齢に伴う疾患のリスクが急激に高まります。AAHAとAAFPのガイドラインでは、シニア猫(10歳以上)に対して最低6ヶ月毎(年2回)の健診を推奨しています(8)(9)。
当院では、さらに積極的な予防医療の観点から、シニア猫に対して年4回(3ヶ月毎)の健診を推奨しています。
どこまで詳しく調べるかによって内容は変わりますが、一般的な検査について解説します。
以下のように動物の状態を確認します。
猫は言葉で「ここが痛い」とか「なんだか調子が悪い」と言えません。問診がとても大切です。
普段の様子を一番よく知っているのは、飼い主さんだけ。普段の様子で気になることがある場合は、獣医師に伝えて下さい。
全身をくまなく調べて、異常がないか確認します。
血液検査には、大きく分けて2つあります。
赤血球、白血球、血小板の数を数えます。これで分かるのは:
血液の中の色々な成分を測ります。これで分かるのは、主に、
尿検査では以下のことを確認します。
そこから、泌尿器(腎臓・膀胱)、ホルモン疾患がないか確認します。
便検査では、形や色、においを確認後、顕微鏡で以下のことを確認します。
レントゲン検査は、体の中を写真でみることができる検査で、主に以下のことを確認します。
体の中をリアルタイムで動画のように見られる検査です。レントゲン検査では見ることができない臓器の中の構造や動きを探索します。
レントゲンとエコーを組み合わせることで、より詳しく体の状態が分かります。‗
「健康診断が大事ってことは分かったけれど、家の猫は外が苦手なんです」という飼い主様も多いのではないでしょうか。
キャリーを見せるだけで、隠れてしまう猫も多いですよね。普段からキャリーを開けて部屋の中に置いておくなど、出かける前の工夫がおすすめです。詳しくはこちらのブログもご参照下さい。https://x.gd/oisCe
また、動物病院受診1~2時間前に、猫のストレスや不安感を和らげる薬を投薬する方法もあります。薬の量や効き具合など詳しくはスタッフまでご相談下さい。
当院では、猫にとってストレスの少ない診察を心がけています。不安な点があれば、いつでもスタッフにご相談ください。
猫の健康診断は、病気の早期発見と予防のために欠かせません。愛猫との時間を少しでも長く、そして質の高いものにするために、定期的な健康診断を習慣にしましょう。
ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽に当院スタッフまでお声がけください。皆様の大切な家族の健康を、私たちがしっかりとサポートいたします。
監修:CUaRE どうぶつ病院京都 四条堀川
院長 吉田昌平
引用文献
本記事は以下の信頼できる学術論文・ガイドラインに基づいて作成されています:
(1) Sparkes AH, Caney S, Chalhoub S, et al. ISFM Consensus Guidelines on the Diagnosis and Management of Feline Chronic Kidney Disease. J Feline Med Surg. 2016;18(3):219-239.
(2) O’Neill DG, Church DB, McGreevy PD, Thomson PC, Brodbelt DC. Longevity and mortality of cats attending primary care veterinary practices in England. J Feline Med Surg. 2015;17(2):125-133.
(3) Cornell University College of Veterinary Medicine. Chronic Kidney Disease. Cornell Feline Health Center. 2025. https://www.vet.cornell.edu/departments-centers-and-institutes/cornell-feline-health-center/health-information/feline-health-topics/chronic-kidney-disease
(4) Boyd LM, Langston C, Thompson K, Zivin K, Imanishi M. Survival in cats with naturally occurring chronic kidney disease (2000-2002). J Vet Intern Med. 2008;22(5):1111-1117.
(5) Elliott J, Rawlings JM, Markwell PJ, Barber PJ. Survival of cats with naturally occurring chronic renal failure: effect of dietary management. J Small Anim Pract. 2000;41(6):235-242.
(6) American Veterinary Medical Association (AVMA). Cat Age Chart. https://www.avma.org/resources-tools/pet-owners/petcare/selecting-pet-cats
(7) Ray M, Carney HC, Boynton B, et al. 2021 AAFP Feline Senior Care Guidelines. J Feline Med Surg. 2021;23(7):613-638.
(8) Vogt AH, Rodan I, Brown M, et al. AAFP-AAHA Feline Life Stage Guidelines. J Feline Med Surg. 2010;12(1):43-54.
(9) Quimby J, Gowland S, Carney HC, et al. 2021 AAHA/AAFP Feline Life Stage Guidelines. J Feline Med Surg. 2021;23(3):211-233.
(10) Brown CA, Elliott J, Schmiedt CW, Brown SA. Chronic Kidney Disease in Aged Cats: Clinical Features, Morphology, and Proposed Pathogeneses. Vet Pathol. 2016;53(2):309-326.