2025.11.18
目次
「散歩の途中で立ち止まることが増えた」
「前より疲れやすい気がする」
「最近ときどき咳をする」
このような変化を「年のせい」だけだと思っていませんか。実は、これらは 心臓病の初期サイン である可能性があります。
心臓病はゆっくり進行し、症状が出た頃にはすでに重度…ということも珍しくありません。
今回は
について、獣医師が分かりやすく解説します。
犬の死因第2位は心臓病(第1位はがん)。
特に高齢になるほど発症率が増えます。
僧帽弁疾患は犬の全心血管疾患の 70%以上(1)。11歳をすぎると発症率が急上昇し(2)、小型犬では 13歳以上の85% に僧帽弁病変が認められるという報告もあります(3)。
最も多いのが僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)(1)。加齢で変性した弁がうまく閉じず、血液が逆流してしまう病気です。
注意すべき犬種
※キャバリアは例外で、若齢から注意が必要。1〜2歳で兆候が出ることもあります(4)。
大型犬では
ドーベルマン、ボクサー、グレート・デーン、ゴールデンは拡張型心筋症(DCM)の好発犬種です。
初期は症状がほとんど出ません。ある調査では 心臓病の犬の57%で、飼い主が異変に気づいていなかった と報告されています。
しかし、早期に診断して治療を始めると、心不全の発症を約15ヶ月遅らせられる(EPIC試験 2016)(5)。
だからこそ、定期的なチェックが本当に重要なのです。
心臓病は突然悪化するわけではありません。多くの場合、わずかなサインから始まります。
心臓が弱ると酸素供給が減り、「少しの運動でもしんどい」状態になります。
典型的な心臓性の咳の特徴
風邪と誤解されがちですが、1週間以上続く咳は要注意。
心臓への負担が増えると、横になると呼吸が苦しくなるため、座った姿勢を好むようになります。
肺水腫など、命に関わる状態です。
定期的な動物病院での検査に加えて、毎日の観察が早期発見につながります。
寝ている時、胸の上下をカウント
15秒 × 4 でOK。
正常:15〜30回/分(6,7)
小型犬はやや多め、大型犬は少なめ。
これは心臓病の悪化を最も早く発見できる指標のひとつです。
毎日チェックしたい呼吸数以外の項目は以下の通りです。
日々のメモが早期発見に役立ちます。
心雑音が聴取された場合、以下の精密検査で心臓の状態を詳しく調べます。
最も重要な検査です。超音波検査では以下のようなことを確認します。
MMVD評価の基準として必須。
胸部レントゲンでは以下のようなことを確認します。
心臓の負担を数値で把握。
無症状段階の発見にも役立つが、単独診断は不可。
心臓病の多くは予防できませんが、リスクを減らし進行を遅らせることはできます。
歯周病が重いほど心血管病リスクが上昇する大規模研究があります(8,9)。
口腔ケアは心臓ケアでもあります。
肥満は心臓に負荷をかけます。
心臓病の進行度に応じて調整。
快適な環境、十分な休息スペース、適度な遊びの時間を確保しましょう。
心臓病が進行した場合、塩分制限が推奨されます。心臓病用の療法食もありますので、獣医師にご相談ください。
心臓病は犬の死因第2位ですが、早期発見・早期治療により、多くの犬が心臓病と共に長く快適な生活を送ることができます。
「ちょっと疲れやすいかな?」
「咳が増えた気がする」
そんな小さな変化が、大切なサインのこともあります。不安な時は、どうぶつ病院にぜひご相談ください。
また、当院は動物病院京都 本院と連携しております。本院では、日本獣医循環器学会 動物循環器認定医の循環器外来を定期的に設けており、高度な心臓エコー検査と最新エビデンスに基づく治療 を行っています。何かご心配ごとがありましたら是非、循環器外来をご利用下さい。
大切な家族である愛犬の心臓の健康を、私たちと一緒に守っていきましょう。
監修:CUaRE どうぶつ病院京都 四条堀川
院長 吉田昌平
———————————————————————————————————
引用文献
本記事は以下の信頼できる学術論文に基づいて作成されています:
(1) Lewis T, Swift S, Woolliams JA, Blott S. Heritability of premature mitral valve disease in Cavalier King Charles spaniels. Vet J. 2011;188(1):73-76.
(2) Dog Aging Project Consortium. Associations between physical activity, morbidity, and mortality in a cohort of companion dogs: results from the Dog Aging Project. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2024.
(3) Buchanan JW. Chronic valvular disease (endocardiosis) in dogs. Advances in Veterinary Science and Comparative Medicine. 1977;21:75-106.
(4) Lewis T, Boswood A, Fuentes VL, et al. EPIC Study Group. Myxomatous mitral valve disease in Cavalier King Charles spaniels. Vet Rec. 2010;166(24):734-735.
(5) Boswood A, Häggström J, Gordon SG, et al. Effect of Pimobendan in Dogs with Preclinical Myxomatous Mitral Valve Disease and Cardiomegaly: The EPIC Study-A Randomized Clinical Trial. J Vet Intern Med. 2016;30(6):1765-1779.
(6) VCA Animal Hospitals. Home Breathing Rate Evaluation. Veterinary Clinical Resources. 2023.
(7) Reece WO. Respiration in Mammals. In: Dukes’ Physiology of Domestic Animals, 12th ed. Cornell University Press; 2004.
(8) Glickman LT, Glickman NW, Moore GE, Goldstein GS, Lewis HB. Evaluation of the risk of endocarditis and other cardiovascular events on the basis of the severity of periodontal disease in dogs. J Am Vet Med Assoc. 2009;234(4):486-494.
(9) Semedo-Lemsaddek T, Tavares M, São Braz B, Tavares L, Oliveira M. Enterococcal Infective Endocarditis following Periodontal Disease in Dogs. PLoS One. 2016;11(1):e0146860.
(10) Keene BW, Atkins CE, Bonagura JD, et al. ACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs. J Vet Intern Med. 2019;33(3):1127-1140