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犬の長時間留守番がもたらすストレスと健康への影響は?対策法について獣医師が解説

2025.12.23

仕事で家を空ける時間が長くなると、
「愛犬はどうしているだろう…」「何も問題は起きていないかな…」と気になりますよね。

帰宅すると部屋が荒れていたり、いつもと様子が違ったり。
犬を飼う多くの飼い主様が抱えるこの悩みですが、実は長時間の留守番は犬にとって想像以上にストレスとなり、健康にも影響を及ぼす可能性があります。

この記事では、

  • 長時間留守番が犬に与える影響
  • 分離不安とは何か
  • ストレスを軽減するための具体的な対策

について、獣医師の立場からわかりやすく解説します。

長時間留守番が犬に与える影響

多くの犬がストレスを感じている

イギリスの大学研究では、留守番中の犬をビデオで観察したところ、80%以上の犬に何らかのストレスの兆候が見られたと報告されています(1)。

一方で、飼い主様へのアンケート調査では、問題行動を「ある」と回答したのは13〜18%程度にとどまりました(1)。
つまり、

実際には多くの犬がストレスを感じているのに、飼い主様はそのサインに気づけていないことが多い

という現実があります。

留守番時間による影響の違い

スウェーデンで行われた研究では、12頭の犬を対象に、30分・2時間・4時間の留守番時の行動や心拍数の変化が調査されました(2)。

  • 留守番中の行動そのものには大きな差は見られなかったものの
  • 飼い主様が帰宅した瞬間の犬の反応にははっきりした違いがあり、

長時間の留守番後ほど、

  • 尾を振る頻度
  • 飼い主様への接触回数
  • 唇を舐める行動
  • 体を震わせる行動

が増えていたと報告されています(2)。

これは、犬が「留守番の長さ」を感じ取っており、その間にストレスがかかっていることを示しています。

体の中で起きているストレス反応

犬のストレスは行動だけでなく、体の中にも変化を起こします。

長期的なストレスの指標として、「被毛中のコルチゾール濃度(ストレスホルモン)」が注目されています。ある研究では、1日あたり単独で過ごす時間が長い犬ほど、被毛中コルチゾールが高くなることが示されました(3)。

慢性的なストレスは、

  • 免疫機能の低下
  • 行動問題の悪化

などにつながる可能性があり、「留守番ぐらいなら大丈夫」と放置しないことが大切です。

分離不安とは?

分離不安とは、飼い主様の不在や「いなくなりそうな気配」によって生じる不安が原因となる行動問題です。

典型的な症状として、次のような行動が報告されています(4)。

  • 破壊行動(71%)
  • 過度の鳴き声(61%)
  • 不適切な排泄(28%)
  • 自傷行為
  • 落ち着きなく動き回る
  • よだれや震え など

家具やドア、コードを齧る、トイレトレーニングができていても粗相をしてしまう、自分の体を過剰に舐めたり噛んだりしてしまう、などがよく見られる行動です。

最近の研究では、分離不安は「一つのタイプ」ではなく、主に次の4つの型に分けられることがわかってきました(5)。

  1. 家の中の何かから逃れようとするタイプ
  2. 外の何か(飼い主様や外の刺激)に近づこうとするタイプ
  3. 外部の音や出来事に強く反応するタイプ
  4. 主に退屈が原因となるタイプ

いずれの場合も、「わがまま」ではなく、不安やストレスのサインであることがポイントです。

分離不安を予防するには?(子犬期からできること)

分離不安は、成犬になってからの「しつけの問題」ではなく、子犬期の経験とも深く関わっています。

予防のために重要とされているポイントは次の通りです(1)。

  • 生後5〜10ヶ月の間に、外の世界・他の人・他の犬など、幅広い経験を積む
  • 家庭内でできるだけ安定した生活リズム(ルーチン)を作る
  • 飼い主様の不在時間を少しずつ増やし、「一人の時間」に慣らしていく
  • 不安な行動に対して叱責や体罰を避ける

段階的な慣らし方の一例

  1. 短時間から始める
    数秒〜数十秒程度、犬をベビーゲートの向こう側に置き、おいしいおやつやフードトイを与えます。飼い主様は犬から見える場所で普段通り過ごし、数分後にゲートを開けます。
  2. 時間を少しずつ延ばす
    犬が落ち着いて過ごせている様子を確認しながら、
    数分 → 10分 → 20分…と、ゆっくり時間を延ばしていきます。
  3. 姿が見えない練習へ進む
    同じように、おやつやフードトイを与えた上で、短時間だけ部屋の外に出ます。
    最初は数秒、慣れてきたら1分、3分…と、犬の様子を見ながら伸ばしていきましょう。

焦らず、「犬が落ち着いていられる時間」を少しずつ増やすのがコツです。

ストレスを軽減するための具体的な対策

ここからは、日常で取り入れやすい対策をまとめてご紹介します。

① 留守番前の準備

1. 十分な運動

出発前にしっかり散歩や遊びの時間をとることは、分離不安の予防策として推奨されています(1)(10)。

  • しっかり運動してエネルギーを発散
  • 心地よい疲れで、留守番中に落ち着いて過ごしやすくなる

ことが期待できます。

2. トイレを済ませる

留守番前には必ずトイレを済ませておきましょう。
トイレエリアを清潔に保つことも、犬が安心して過ごすための大切なポイントです。

3. 少量の給餌

研究では、主要な食事の給餌タイミングが分離不安の発症と関連している可能性が示唆されています(11)。

留守番前に少量の食事を与えることで、犬が落ち着きやすくなる場合もあります。
ただし、個体差がありますので、愛犬の様子を観察しながら調整してください。


② 退屈しない環境づくり(エンリッチメント)

フードパズル・知育おもちゃ

普段の食器をやめて、コングなどのフードトイや探索ゲームを中心にすることで、犬本来の「探す・かじる・考える」といった行動を引き出せます(8)。
• 退屈しにくくなる
• 問題行動の予防につながる

などの効果が期待できます。

噛むおもちゃ

噛む・舐める・嗅ぐ・引き裂くといった行動は、犬がストレスや退屈を和らげ、自分を落ち着かせるためによく用いる行動です(9)。

安全な素材の噛むおもちゃを用意し、一匹で遊んでいても危険のないものを選びましょう。

おもちゃのローテーション

犬は同じおもちゃにすぐ慣れてしまい、興味を失いやすいとされています(10)。
• 2〜3個だけ出しておく
• 残りは隠しておき、数日〜1週間ごとに入れ替える

といった形でローテーションすると、「新しいおもちゃ」のように楽しんでくれます。

③ 安全な環境の確保

分離不安の犬が、家の電気コードを噛んで火事を起こしてしまったケースも報告されています(1)。
ストレス対策だけでなく、「事故を防ぐ」という意味でも環境づくりは重要です。

  • 危険物の除去:電気コード、小さな飲み込める物、有毒植物などは片付ける
  • 壊されると困る物は犬の届かない場所へ移動
  • 犬が安心して休めるスペース(クレートやベッド)を用意

「ここにいれば安心」という場所を一つつくってあげると、犬にとっての心の拠りどころになります。


④ ケージ(クレート)の活用について

ケージやクレートは、**適切に慣らすことができれば犬にとって安心できる「自分の部屋」**になります(1)。

ただし、分離不安が重度な場合には、ケージがかえってストレスを高め、激しい脱出行動や怪我につながることもあるため注意が必要です(1)。

ケージトレーニングのポイントは、

  • 最初からケージ=「良いことが起こる場所」にする(おやつ・ご飯・おもちゃを中で与える)
  • 短時間から始めて、少しずつ時間を延ばす
  • 怒られた後に入れるなど、「罰の場所」にしない

という点です。
不安が強い子の場合は、必ず獣医師やトレーナーに相談しながら進めることをおすすめします。

どれくらいの留守番時間が適切?

一般的には、成犬であれば4〜5時間程度までの留守番が目安とされています。

これは、

  • 運動できる機会
  • トイレに行く機会
  • 人とのコミュニケーションの時間

を確保するために必要と考えられる時間から導かれた目安です。ただし、

  • 子犬
  • シニア犬
  • 持病のある犬
  • すでに分離不安傾向のある犬

では、これよりも短い時間でもストレスが大きくなることがあります。

長時間の留守番がどうしても避けられないとき

仕事や家庭の事情で、長時間の留守番がどうしても避けられない場合には、次のような選択肢も検討してみてください。

  • ペットシッターやドッグデイケアの利用
  • 在宅勤務の家族や友人に短時間預かってもらう
  • 昼休みに一度帰宅し、散歩やスキンシップの時間をつくる
  • 出発前・帰宅後に、いつもより長めの散歩や遊びの時間をとる

「ずっと一人きりにしない工夫」を少しでも取り入れることが大切です。

まとめ

長時間の留守番は、多くの犬にとってストレスとなり、
分離不安などの行動問題や、慢性的なストレスによる健康への影響につながる可能性があります。

大切なポイントをもう一度まとめると

  • 多くの犬が、飼い主様が気づかないところでストレスサインを出している
  • 分離不安は「わがまま」ではなく、不安やストレスが原因の行動
  • 子犬期からの経験や、日々の留守番のさせ方が予防につながる
  • フードトイ・噛むおもちゃ・運動・安全な環境づくりなどで、留守番時間の質を高められる
  • 目安は4〜5時間程度。子犬・シニア・持病のある子はより配慮が必要

愛犬の様子をよく観察し、

  • 破壊行動
  • 過度な鳴き声
  • 粗相
  • よだれ・震え

などのサインが見られたら、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

「うちの子、留守番は大丈夫かな?」と少しでもご不安があれば、どうぞお気軽に当院までご相談ください。
生活スタイルや愛犬の性格に合わせて、無理のない留守番の工夫を一緒に考えていきましょう。


監修:
CUaRE どうぶつ病院京都 四条堀川
院長 吉田昌平

引用文献リスト
(1) Sargisson RJ. Canine separation anxiety: strategies for treatment and management. Vet Med (Auckl). 2014;5:143-151.
(2) Rehn T, Keeling LJ. The effect of time left alone at home on dog welfare. Appl Anim Behav Sci. 2011;129(2-4):129-135.
(3) Siniscalchi M, et al. Evaluation of hair cortisol as an indicator of long-term stress responses in dogs in an animal shelter and after subsequent adoption. Sci Rep. 2022;12:6520.
(4) Flannigan G, Dodman NH. Risk factors and behaviors associated with separation anxiety in dogs. J Am Vet Med Assoc. 2001;219(4):460-466.
(5) Mills DS, et al. Developing diagnostic frameworks in veterinary behavioural medicine: Disambiguating separation related problems in dogs. Front Vet Sci. 2020;7:499.
(6) Berg EK, et al. Ruff Morning? The Use of Environmental Enrichment during an Acute Stressor in Kenneled Shelter Dogs. Animals (Basel). 2023;13(10):1643.
(7) Menor-Campos DJ, et al. Effects of two types of environmental enrichment on the behavior of dogs in shelters. Appl Anim Behav Sci. 2025;562:106489.
(8) Kogan LR, Schoenfeld-Tacher R, Simon AA. Behavioral effects of auditory stimulation on kenneled dogs. J Vet Behav. 2012;7(5):268-275.
(9) Wells DL. A review of environmental enrichment for kennelled dogs, Canis familiaris. Appl Anim Behav Sci. 2004;85(1-2):49-65.
(10) Herron ME, et al. Survey of the use and outcome of confrontational and non-confrontational training methods in client-owned dogs showing undesired behaviors. Appl Anim Behav Sci. 2009;117(1-2):47-54.