2025.02.18
人と同じように、猫でも高血圧は珍しい病気ではありません。研究によると、高齢猫の約20%が高血圧であったと報告されています。
高血圧症は猫の全身に深刻な影響を及ぼす可能性がある重要な病気です。しかし、血圧測定に対する関心は低く、定期的な血圧測定を実施している動物病院も少ないのが現状です。
特に注意すべき点は、高血圧症は血圧を測定しない限り発見が極めて困難だということです。目に見える症状が現れた時には、かなり進行していることもあります。
そこで今回は、猫の飼い主様に
について解説します。
ぜひ、最後までお読みいただき、血圧測定の重要性について少しでも知っていただければ幸いです。
ご自身の健康診断で、「年齢と共に血圧が上がってきたわ」という飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。血圧とは心臓が血液を全身に送り出す時に血管にかかる力のことです。心臓の筋肉がギュッとしぼんだ時を上の血圧(最高血圧)、筋肉が緩んだ時を下の血圧(最低血圧)と言います。
「猫でも血圧測定できるのですか?」というお声を診察室でよく耳にします。人と同様に血圧を測定することができます。人と異なる点としては以下のようなことがあります。
ヒトは腕を血圧計に入れて測りますよね。
猫では犬猫専用の測定器が必要で、カフと呼ばれるものを足や尾に巻いて測定します。院内では緊張や興奮をしてしまい、血圧が高めにでることがあります。
(左は前足に、右は尾にカフと呼ばれるものを巻いて測定している写真です。)
(当院では麻酔モニターを用いて血圧測定を行っています。左端に血圧の波形、数字はそれぞれの血圧が示されます。)
高血圧が続くと、特に細い血管が多い臓器に障害が起こりやすくなります。これを「標的臓器障害(TOD:Target Organ Damage)」と呼び、主に目、心臓、脳、腎臓が影響を受けます。また、高血圧の原因となる病気(二次性高血圧)がある場合は、その病気特有の症状も併せて見られることがあります。
それぞれの臓器での影響を解説します。
高血圧は、猫の目に重大な影響を及ぼすことがあります。血圧が上昇すると、目の奥にある血管に負担がかかり、視力が落ちたり失明したりすることがあります。目の奥には「網膜」という、物を見る際に欠かせない重要な組織があります。網膜はカメラのフィルムのような役割をしており、光の刺激を脳に伝え視覚を作りだしています。高血圧が続くと、この網膜が損傷を受けたり剥がれたりすることで、視力に障害が出ることがあります。
当院では、「目が見えていないような気がする」「目が丸くなってしまっている」という主訴で来院され、検査をすると高血圧が原因だったケースも経験しています。目の症状は急激に進行する可能性があることから、目の異常に気づいたら、すぐに動物病院を受診するようにしましょう。
持続的な高血圧は心臓に大きな負担をかけます。血圧に負けないように心臓が頑張り続けることで、心臓の筋肉が厚くなる「心肥大」が起こり、さらに症状が進行すると「心不全」を引き起こす可能性があります。ただし、もともとの心臓病が原因で高血圧になるケースもあるため、一概にどちらが先に発症したのか判断できない場合もあります。
脳の血管に高血圧の影響が出ると、様々な神経症状が現れることがあります。初期症状としては「ふらふらする」といった軽度のものから、「運動失調」や「平衡感覚の喪失」といった重度の症状まで見られます。症状が進行すると、発作のような深刻な状態に至ることもあります。特に、急にふらつき始めた場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。
高血圧は腎臓の組織を傷つけ、機能をおとします。腎臓の変化は進行性で、機能のダメージが徐々に進んでいきます。
高血圧症は原因不明の「特発性高血圧症」(本態性高血圧症)と、何らかの基礎疾患によって二次的に起こる「続発性高血圧症」があります。
特発性高血圧とは原因の分からない高血圧症のことで、高血圧の猫の約20%程を占めています。特発性高血圧だと思っていたら早期の腎疾患だったというケースもあります。
続発性高血圧は他の病気が原因で高血圧となる状態です。代表的な病気は、以下のようなものがあります。
慢性腎臓病では、腎臓内の血管が硬くなることで血液が流れにくくなり、さらに腎臓から分泌される血圧調整ホルモンの影響により血圧が上昇します。
高血圧が続くと、腎臓の組織が損傷を受け、腎機能がさらに低下します。腎機能の低下がさらなる血圧上昇を引き起こすという悪循環に陥りやすいです。研究によると慢性腎臓病の猫の約50〜60%が高血圧を伴っていると報告されています。
甲状腺機能亢進症は、老齢の猫によく見られるホルモン性の病気です。甲状腺から分泌されるホルモンが過剰になることで、体内の代謝が活発になり、それに伴って血圧も上昇します。
研究では治療前の猫の約87%に高血圧が見られたと報告されています。
「アルドステロン」というホルモンは、副腎という臓器から分泌され、体内の塩分バランスや血圧の調整に重要な役割を果たしています。高アルドステロン血症では、このホルモンが過剰に分泌されることで血圧が上昇します。
副腎の腫瘍によって起こることもありますが、他の病気が原因となって二次的に発症することもあります。
高血圧の治療は、原因となる病気の治療と並行して行われます。治療方法は主に以下のようなものがあります。
血圧を下げる「降圧剤」を1種類、または複数組み合わせて使用します。ただし、急激な血圧低下は腎臓やその他の臓器に負担をかける可能性があるため、血圧の安定化までは慎重な経過観察が必要です。定期的な血圧測定を行いながら、治療を進めていきます。
高血圧の原因となっている病気がある場合には、基礎疾患を治療すれば高血圧が良くなることもあります。
猫の高血圧症は、目に見える症状が現れるまで発見が難しい病気です。特に7歳以上の高齢猫での発症が多いことが報告されているため、定期的な健康診断と血圧測定による予防的な健康管理が重要です。
当院では、猫の血圧測定を積極的に推奨しており、できるだけストレスの少ない環境で測定を行うよう心がけています。
普段と様子が違う、気になる症状がある場合は、すぐに当院にご相談ください。
監修:CUaRE 動物病院京都 四条堀川