2025.06.10
愛猫がシニア期に入って食欲が落ちてきたとき、「歳だから仕方ない」と諦めていませんか?実は、高齢猫の食欲低下には生理的な変化だけでなく、治療可能な病気が隠れていることも少なくありません。
食事はシニア猫の健康維持において最も重要な要素の1つです。適切な栄養摂取ができないと、筋肉量の低下(サルコペニア)から様々な病気を引き起こし、愛猫の生活の質を大きく損なう可能性があります。
今回猫の飼い主様に
について解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛猫の健康寿命を伸ばしましょう。
シニア猫が食べなくなる原因は、大きく分けて「生理的な変化」と「病気によるもの」の2つに分類されます。
生理的な変化には以下のようなものがあります。
シニア期に入ると、猫の基礎代謝は徐々に低下します。若い頃に比べて睡眠時間が増え、運動量も減少するため、必要なエネルギー量が少なくなり、自然と食事量が減ることがあります。
年齢とともに胃腸の働きが弱くなり、食べ物の消化・吸収能力が低下します。そのため、以前と同じ量を食べることが困難になったり、食後の不快感から食欲が減退することがあります。
猫は嗅覚で食べ物の安全性を判断する習性があります。加齢により嗅覚が鈍くなると、フードの魅力を感じにくくなり、食欲が低下する場合があります。
病気が原因で食欲がおちる原因は以下のようなものがあります。
歯周病や口内炎は、シニア猫に最も多く見られる食欲不振の原因です。口の中に痛みがあると、食べたくても食べられない状態になります。特に歯周病は、シニア猫の約8割が罹患するといわれる代表的な疾患です。
シニア猫の約3分の1が発症するとされる慢性腎臓病は、初期には食欲不振が主な症状として現れます。進行すると嘔吐や体重減少なども伴います。
肝臓病、膵炎、腫瘍などの内臓疾患も食欲不振を引き起こします。これらの病気は早期発見・早期治療が重要です。
環境の変化、新しいペットの追加、引っ越しなど、猫にとってのストレス要因も食欲低下の原因となります。シニア猫は特に環境変化に敏感になる傾向があります。
シニア猫の食欲低下を「一時的なもの」と軽視してはいけません。適切な栄養摂取ができない状態が続くと、以下のような猫の健康に影響を与える可能性があります。
サルコペニアとは、加齢や栄養不足により筋肉量が減少し、筋力が低下する状態を指します。シニア猫では、食欲不振による栄養不足がサルコペニアを加速させる主要因となります。
サルコペニアは以下のようなリスクを増加させます。
筋肉量が減ることで、ジャンプや階段の登り降りが困難になり、生活の質が下がります。筋肉は免疫機能と関わりがあるため、代謝が落ちることで感染症などにかかるリスクが上がります。
適切な栄養摂取ができない状態が続くと、わずか1週間程度で筋肉量の減少が始まります。特にシニア猫では、若い猫に比べて筋肉の回復能力が低いため、一度失った筋肉を取り戻すことは非常に困難です。
年をとった猫(シニア猫)は、若いころと比べて免疫力が落ちやすく、さまざまな病気にかかりやすくなります。特に注意したいのが「感染症」です。
猫の免疫システムは、日々ウイルスや細菌から体を守ってくれています。タンパク質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素が不足すると、免疫細胞の働きが低下します。免疫細胞の働きが弱まり、感染症にかかりやすくなります。
シニア猫は以下のような感染症にかかりやすくなります。
免疫力が落ちることで、猫風邪(猫ヘルペスウイルス感染症・猫カリシウイルス感染症)などの呼吸器感染症にかかりやすくなります。高齢になると膀胱炎などの泌尿器トラブルも増加します。
また、猫は自宅での歯磨きが難しく、年齢を重ねると歯石や歯肉炎・歯周病が進行しやすくなります。これらの口腔内感染症は、悪化すると心臓病や腎臓病のリスクを高めることも知られています。さらに、グルーミングの頻度が減ることで皮膚が汚れ、細菌やカビによる皮膚感染症も起こりやすくなります。
猫が24時間以上まったく食べない状態が続くと、「肝リピドーシス(脂肪肝)」という重い病気になることがあります。
これは、食事からエネルギーが摂れない代わりに、体の脂肪が肝臓に大量に蓄積されることで起こる病気です。
特に肥満気味のシニア猫ではリスクが高く、36時間以上の絶食は命にかかわる可能性もあります。
シニア猫の食欲を改善するために、飼い主様ができる方法を解説します。
温めることでフードの香りが強くなり、嗅覚が低下したシニア猫でも食べ物を認識しやすくなります。また、野生時代の習性として、体温に近い温度の食べ物を好む傾向があります。
具体的にはドライフードをお湯でふやかす、温めたウェットフードと一緒に混ぜるといった方法があります。電子レンジは温めむらが出やすいので、湯煎がおすすめです。
硬いドライフードが食べにくい場合は、ぬるま湯でふやかして柔らかくすると、噛む力が衰えたシニア猫でも食べやすくなります。
ウェットフードに少量の水を加えてミキサーにかけ、ペースト状にすると、より舌触りが良く食べやすくなります。市販の介護用とろみ粉を使用して、スープやふやかしたフードにとろみをつける方法もあります。とろみがあると舌で絡めとりやすく、嚥下しやすくなります。
ウェットフードは水分含有量が多く、香りも強いため、シニア猫の食欲を刺激します。また、水分補給も同時に行えるメリットがあります。
適切な高さで食事をすることで、食後の吐き戻しも防げます。猫の頭と背骨が一直線になる高さ(前脚を曲げずに食べられる姿勢)が理想的です。これにより、首や関節への負担が軽減されます。
1日2回の食事を3〜4回に分けて与えます。一度に食べる量が少なくても、回数を増やすことで総摂取量を確保できます。
少量ずつ与えることで、常に新鮮なフードを提供できるメリットもあります。
食欲をそそるために好物をトッピングするのもおすすめです。
猫用のふりかけやかつお節、ささみなどが挙げられます。
療法食を食べている、食事制限があるといった場合は獣医師に相談してから与えるようにしましょう。
シニア猫は環境変化に敏感なため、安心して食事できる環境作りが重要です。
人や他のどうぶつの出入りが少なく、騒音のない場所を選んであげましょう。
また、食器は毎食後に洗浄し、常に清潔な状態を保ちましょう。
シニア猫で以下のような症状が見られた場合は、なるべく早く動物病院を受診しましょう。
シニア猫が食欲がない場合は、内臓や呼吸などあらゆる病気の可能性が考えられます。特に、何も食べない状態が24時間以上続いている場合は、肝リピドーシスのリスクが高まるため気付いた時点でなるべく早く動物病院に相談しましょう。
食べないことに加えて嘔吐や下痢が同時に起こっている場合は、感染症や内臓疾患の可能性が高く、脱水症状のリスクもあります。
シニア猫は体力や筋力の低下により、若い時よりも寝ている時間が増えます。普段よりもぐったりしている、隠れて出てこない、反応が鈍いなどの症状がある場合は、注意しましょう。
食事量が減ると排泄の回数が減る傾向があります。排便回数が減ると腸の動きが落ち、体が脱水傾向に傾きます。排尿回数が減ると膀胱炎や腎不全のリスクが高まります。
呼吸数は体調不良の分かりやすいサインです。以下のような症状がある場合は注意しましょう。
シニア猫の食欲不振は「年齢だから仕方ない」と諦めるものではありません。適切な対処により、健康寿命を延ばすことができます。
普段からシニア猫の食事量や体調を観察し、小さな変化にも気づけるようになることが重要です。「これは様子を見ていいの?」「すぐに受診すべき?」と迷われた際は、お気軽に当院までご相談下さい。
監修:CUaRE 動物病院京都 四条堀川