2025.09.23
目次
「最近、愛犬の反応が鈍くなった」
「名前を呼んでも振り返らない」
「夜中に徘徊するようになった」
このような変化は犬の認知症(認知機能不全症候群:CDS)のサインかもしれません。
犬の認知症は、適切な遊びと脳トレーニングによって、進行を遅らせることができるとされています。
愛犬が最期まで「その子らしく」過ごせるよう、今日から始められる効果的な認知症予防法を、解説します。7歳以上のシニア犬を飼っている方は、ぜひ実践してください。
犬の脳は大脳皮質、海馬、扁桃体など、人間と非常に似た構造を持っています。病気や加齢により脳の実質が委縮したり、神経細胞が減ったり、脳への血流が悪くなったりすると言われています。その結果、脳がダメージを受け認知機能などが低下します。
このような変化は不可逆的(元に戻ることはない)とされていました。しかし近年低下した認知機能などが戻る可能性があることが分かってきました。
脳の一部がダメージを受けても、使われていなかった部分が新しく働き始めるからです。
運動と脳トレーニングは犬の認知症予防に効果的とされています。
犬の認知症の進行を遅らせたり、予防につながる遊びを以下で解説します。
ノーズワークとは、もともと探知犬や災害救助犬の訓練から発展したアクティビティで、犬本来の優れた嗅覚能力を活用した脳トレーニング法です。現代の家庭犬は人間社会で生活することで嗅覚を使う機会が減っているため、この本能的な能力を呼び覚ますことが重要です。
犬の嗅覚受容体は約3億個(人間の約6倍)で、嗅覚情報は脳に膨大な刺激をもたらします。複数の研究により、おやつ探し課題のスコアは認知機能と直接関連することが証明されており、嗅覚を使った課題解決は廃用性症候群を防ぎ、感覚・認知機能の維持に直結します。
基本のやり方は、犬が隠された匂いを探し出し、見つけたときに飼い主に「見つけたよ」の合図を送る。飼い主はその合図に反応して褒めたり、ご褒美を与えることで、犬との重要なコミュニケーションツールにもなります。
新しい動作・コマンドの練習をする方法です。新しいものは脳に刺激を与えます。学習能力が低下しても、全く学習できないわけではありません。「おすわり」「伏せ」「お手」といった基本的なコマンドを忘れている場合は、そこから再度復習します。
食事時間を脳トレーニングの時間に変える効果的な方法です。通常のお皿でガツガツ食べる習慣は、シニア犬の脳に刺激を与えません。
知育フードボウルや凹凸のあるマットを使用することで、犬は舌や鼻を器用に使い、考えながら食べる必要があります。この「考える食事」は前頭葉を活性化し、問題解決能力を維持します。
手作りの方法として、タオルの間にドライフードを挟んだり、ペットボトルに穴を開けてフードを入れる方法もあります。食事時間が延びることで満足感も向上し、早食い防止にもなります。
複数の感覚を同時に刺激することで、脳の広範囲な領域が活性化されます。特にシニア犬では、使わなくなった感覚器のさらなる老化を防ぐことが重要です。
バランスボール(バランスディスク)を使用した姿勢維持訓練。身体全体の動きや回転を感知する平衡感覚は、シニア犬が最も使わなくなる感覚の一つです。不安定な円盤の上での姿勢維持により、小脳機能と体幹筋力を同時に強化できます。
シニア犬の筋力低下は認知機能低下と密接に関連しています。運動と認知的判断を組み合わせたトレーニングで、身体機能と脳機能を同時に維持できます。
室内の平坦な床だけでは使われる筋肉が限定されます。布団やクッション、毛布を床に敷き詰めて柔らかな散歩道を作ることで、普段使わない体の奥深くにある筋肉(深層筋)や肉球周りの筋肉を効果的に刺激できます。
おやつで誘導しながらコースを歩かせ、足が沈み込む不安定な環境で体幹を鍛えます。
滑りやすい床には滑り止めマットを使用し、高さのある障害物は避けて、シニア犬でも安全にチャレンジできる環境を整えましょう。
市販の知育玩具は、犬の論理的思考と手先の器用さを同時に鍛える優れたツールです。レバーを押す、スライドを動かす、蓋を回すなど、様々な動作が要求されます。
重要なのは難易度の段階的調整です。最初は簡単なものから始め、慣れてきたら複数の動作が必要なものに挑戦させます。成功体験を積み重ねることで、シニア犬でも新しい学習に対する意欲を維持できます。
飼い主が見守る中で行うことで、達成感を共有でき、絆も深まります。1回の使用時間は10-15分程度に留め、疲労を避けることが大切です。
犬の聴覚は人間より優れており、適切な音楽は脳の広範囲な領域を刺激します。クラシック音楽、特にモーツァルトの楽曲は犬のリラクゼーション効果が高いとされています。
聴覚刺激としては、鈴やベルの音を使った音当てゲームも効果的です。飼い主が見えない場所で音を鳴らし、犬にその方向を向かせたり、音の種類を覚えさせたりします。
最近では犬専用にデザインされた音楽も販売されており、認知症の進行抑制効果が報告されています。1日30分程度の音楽時間を設けることで、ストレス軽減と脳機能維持の両方が期待できます。
触覚刺激は犬の脳の感覚野を直接活性化し、飼い主との絆を深める重要な要素です。優しいマッサージは血流を改善し、脳への酸素供給を増加させます。
様々な質感のタオルやブラシを使い分けることで、触覚の多様性を提供できます。耳の後ろ、首回り、背中をゆっくりと撫でることから始め、犬がリラックスしたら四肢まで範囲を広げます。
マッサージ中は優しく話しかけることで、聴覚と触覚を同時に刺激できます。毎日決まった時間に行うことで、犬にとって安心できるルーティンとなり、ストレス軽減効果も期待できます。
犬同士の関わりは、飼い主や人間との交流だけではカバーできない特別な脳領域を刺激します。
シニア犬にとって「犬の幼稚園」や「デイケア」は貴重な社会化の場です。特に犬同士の交流が得意な子には積極的な参加をお勧めします。逆に犬が苦手な子や、周囲が若くてエネルギッシュすぎる環境では、ストレスとなる可能性があります。その子の性格や活動レベルに合わせて調整してあげましょう。
他の犬との関わりとして、新しくどうぶつを迎えるということも選択肢です。シニア犬に適切な遊び相手ができることで、精神的刺激が増し、活力向上につながることが多くあります。
普段と異なる環境での探索は、犬の適応能力と好奇心を刺激する強力な脳トレーニングです。新しい匂い、音、景色は脳に予想外の刺激を与え、休眠していた神経回路を活性化させます。
安全な範囲での車でのお出かけ、普段と違う散歩コース、友人宅への訪問などが効果的です。重要なのは犬にとって過度なストレスにならないよう、短時間から始めることです。
屋内でも効果があります。家具の配置を少し変える、新しいおもちゃを置く、普段入らない部屋を探索させるなど、日常に小さな変化を加えることで継続的な脳刺激を提供できます。
犬の認知症予防において、日常的な遊びと脳トレーニングは極めて効果的な対策です。特にノーズワークは犬本来の嗅覚能力を活用し、脳の広範囲な領域を刺激するため、最も推奨される認知症予防法といえるでしょう。
重要なのは、愛犬の年齢や体力、性格に合わせて遊びを選択し、楽しみながら継続することです。シニア犬になってからでも新しい刺激を与えることで、脳の未使用部分が活性化し、認知機能の維持・改善が期待できます。
認知症は完全に防げるものではありませんが、適切な予防策により進行を大幅に遅らせることができます。愛犬との残された時間をより豊かで快適なものにするため、今日からできる簡単な遊びから始めてみてください。
何か気になる変化があれば、早めに獣医師にご相談ください。
監修:CUaRE 動物病院京都 四条堀川