2025.06.03
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愛犬がシニア期に入ると、以前のように元気に走り回ることが減ったり、階段の上り下りをためらうようになったりする場面が増えます。単なる年齢によるものの場合もありますが、実は関節に問題が生じているサインかもしれません。
特に加齢とともに増加する関節トラブルは、早期からの適切なケアによって進行を遅らせることができます。しかし「いつから関節ケアを始めるべきか」「どのような運動や食事が良いのか」といった疑問をお持ちの飼い主さんも多いのではないでしょうか。
今回は犬の飼い主様に、
について解説します。
ぜひ、最後までお読みいただき、愛犬との楽しい時間を充実したものにしましょう。
犬の関節トラブルの中でも最も一般的なのが「変形性関節症」です。これは関節の軟骨がすり減ったり、変形することで骨と骨が直接こすれ合い、痛みや炎症を引き起こす病気です。特に加齢によって関節のクッションの役割である軟骨が弱くなることで発症リスクが高まります。
変形性関節症は、成犬でも約20~25%が罹患していると言われており、特に大型犬や起こりやすい犬種は日頃から注意してあげましょう。大型犬(ゴールデンレトリーバー、ラブラドールなど)や体型に特徴のある小型犬(コーギー、ダックスフンドなど)は特に注意が必要です。
初期の段階では無症状のこともありますが、進行すると以下のような症状が見られます
これらの症状は徐々に進行するため、単なる老化と誤解されることも珍しくありません。
特に朝起きた直後や長時間同じ姿勢でいた後に、動きづらそうにしている場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
関節トラブルの原因としては、加齢による自然な軟骨の摩耗だけでなく、以下のような要因が考えられます。
特に肥満は関節への大きな負担となります。
また、膝蓋骨脱臼(パテラ)や股関節形成不全などの先天的な問題を持つ犬種では、若いうちから関節ケアが必要になることがあります。バセット・ハウンド、ブルドッグ、ジャーマン・シェパードなどの犬種は遺伝的に関節の問題を抱えやすいとされています。
事故や転倒などによる外傷も、将来的な関節トラブルの原因となることがあります。怪我の後は特に注意深く観察しましょう。
犬の関節ケアは「いつから始めるべきなのか?」という疑問をお持ちの飼い主さんは多いのではないでしょうか。犬種や体型、生活環境によって異なりますが、基本的には「予防」の観点から若いうちからのケアをおすすめしますが、今回はシニア期におけるケアのポイントを解説します。
大型犬では、5〜6歳から、それ以外では7歳以上から積極的にケアを始めましょう。
シニア期の犬にとって、適切な運動は関節の健康維持に不可欠です。しかし、若い頃と同じ運動では関節に負担がかかり、かえって症状を悪化させてしまうことも。年齢に合わせた運動メニューと頻度を意識しましょう。
シニア犬の関節に優しい運動には、以下のようなものがあります。
体調が良ければ、短時間でも散歩することが大切です。10〜15分程度の散歩を1日2〜3回に分けて行うと、筋力維持や肥満予防にもつながります。外の景色や匂いを楽しむことで脳への刺激となり、ストレス解消や認知症予防にも効果的です。
水中運動や水遊びは良いリハビリになります。水の浮力によって体重による関節への負担が軽減され、水の抵抗で適度な筋力トレーニングになるからです。
マッサージやストレッチも効果的な関節ケア方法です。シニア犬は筋肉がこわばりやすいため、優しくマッサージをして血行を促進することで、関節の痛みを和らげることができます。
運動に加えて正しい食事量で健康的な体重を維持し、関節に大きな負担がかからないようにしましょう。
年齢を重ねた犬の関節をサポートするためには、体重管理と栄養バランスの両面からのアプローチが必要です。
食事管理の詳細についてはこちらもご参照下さい。
関節ケアにおいて最も重要なポイントは「適正体重の維持」です。
1日の食事やおやつの量はきちんと計算し、守りましょう。過剰な体重は関節への負担を直接増加させ、症状を悪化させる大きな要因となります。
シニア犬の関節の健康に役立つ主な栄養素には以下のようなものがあります。
グルコサミンは軟骨の主成分を作る材料となるもので、軟骨を保護し、関節の動きを滑らかにする働きがあります。
コンドロイチンも軟骨を構成する成分の1つですが、関節の軟骨に水分と弾力を与え、衝撃を吸収する役割を担っています。グルコサミンと摂取することで相乗効果が期待できます。
オメガ3脂肪酸とメチルスルフォニルメタン(MSN)は関節の炎症を和らげる効果があります。
特にEPAやDHAを含むオメガ3脂肪酸は、体内で炎症を抑える物質の生成を促進するため、関節の痛みを軽減するのに役立ちます。
シニア期に効果的な食事のポイントを解説します。
消化能力が低下するシニア期は、1日2〜3回に分けて食事を与えることで消化の負担を減らせます。
シニア犬は成犬に比べて喉の渇きを感じづらくなります。関節トラブルがあると水飲み場まで移動するのを億劫がることも。脱水症状のリスクも高めるので、意識的に水分をとらせる工夫をしましょう。家の複数箇所に水飲み場を設置する、ドライフードをぬるま湯でふやかす、ウェットフードを取り入れるなどの方法が効果的です。
シニア期は活動量が減るため、若い頃より20〜30%カロリーを抑えて与えるか、低カロリーのフードを選択する必要があります。
カロリーと共にタンパク質も抑えたフードを選ばれる飼い主様がいらっしゃるかもしれませんが、タンパク質は減らさずに積極的に与えましょう。タンパク質は筋肉をつくるもとで、筋肉量維持のために良質なタンパク質は欠かせないからです。ただし、持病によっては高タンパクのフードが体の負担になる場合もあるため、獣医師に相談して適切なフードを選びましょう。
シニア犬の関節ケアは、食事や運動だけでなく、日常生活の環境づくりも重要です。特に関節に問題を抱える愛犬にとって、家の中でのちょっとした工夫が、大きな負担軽減につながります。
家庭でできる関節に優しい環境づくりのポイントを解説します。
シニア犬にとって滑りやすい床は関節に大きな負担をかけます。以下のような対策が効果的です。
特にフローリングや床材の上には、犬がよく通る場所にカーペットやマットを敷くことをおすすめします。シニア犬は足腰の踏ん張りがききづらく、滑って転倒すると、関節や筋肉に思わぬ負担がかかるだけでなく、さらなる怪我のリスクも高まります。
滑り止め加工された犬用の靴下やパッドは、安全に歩行するのに有効です。
シニア犬は段差の上り下りが難しくなってきます。日常生活で以下のような工夫をしましょう。
水飲み場、トイレ、ベッドなどを犬の居場所の近くにまとめ、移動を楽にする方法が犬にとって1番良いですが、生活環境によっては難しい場合もあります。その場合は、ソファやベッドに上がるためのスロープやステップを設置すると、ジャンプによる関節への衝撃を避けることができます。また、食器や水飲み場の高さを調整して、頭を下げる角度が低くくなるようにすると、首や背中への負担が軽減されます。
硬すぎたり、逆に柔らかすぎるベッドはシニア犬の関節に負担をかけます。低反発マットや関節を支えるクッションを使って適度なクッション性を確保しましょう。
寒い季節には保温性のあるベッドやホットカーペットを上手く利用すると、関節の痛みを緩和する助けになります。ただし、低温やけどなどの健康被害には注意しましょう。
関節トラブルを抱える犬にとって、室内環境は非常に重要です。
特に寒い季節は関節の痛みが悪化しやすいため、室温は20〜22℃程度を維持するのが理想的です。床暖房や部分的なヒーターの使用も効果的ですが、火傷には十分注意してください。急な温度変化も関節に負担をかけるため、エアコンの風が直接当たらないよう配慮しましょう。
冬の散歩時には、体を冷やさないよう犬用のコートやブーツを活用することも大切です。特に雪や氷の上を歩く際は、足元の冷えと滑りに注意しましょう。
関節に問題がある犬の日常的な動きをサポートする工夫も必要です。
愛犬を抱き上げる必要がある場合は、お腹と胸の下にしっかりと手を入れて全身を支えるようにしましょう。関節に負担のかかる持ち方や、前足だけで持ち上げるような抱き方は避けてください。
関節サポート用のハーネスや後ろ足用のスリングを使用すると、階段や高い場所への移動をサポートできます。特に後ろ足に問題がある犬には、後肢用の補助具が役立ちます。
愛犬がシニア期を迎えると、関節の健康は生活の質を大きく左右します。
関節トラブルは一度進行すると完全に元に戻すことは難しいものです。日頃から愛犬の行動や動きの変化に注意を払い、「散歩を嫌がる」「階段の上り下りがゆっくりになった」などの変化に気づいたら、早めに獣医師に相談しましょう。
「関節に問題があるから運動を控えるべき」と思われがちですが、実は逆です。無理のない範囲で運動を続けることが、筋肉量の維持や関節の柔軟性を保つ鍵となります。
散歩や運動について不安に思うことや、気になることがありましたら、どうぞお気軽に獣医師にご相談ください。愛犬にあった関節ケアを見つけていきましょう。
監修:CUaRE 動物病院京都 四条堀川