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猫の甲状腺機能亢進症の症状を見逃さないために|獣医師がやさしく解説

2026.02.10

「最近よく食べるのに、痩せてきた気がする…」
「夜中に鳴くことが増えて、なんだか落ち着きがない…」
その変化、甲状腺機能亢進症 のサインかもしれません。
この病気は 10歳以上の猫の約10%が発症する、シニア猫で最も多い内分泌疾患 です(1)。
進行すると心臓や腎臓にも負担がかかりますが、早期に見つければ、元気に長く暮らせる可能性が高い病気 です。
この記事では、

  • 初期に気づくポイント
  • 検査の流れ
  • 治療の選択肢
  • 治療後の注意点

を解説します。

甲状腺機能亢進症とは?

首にある「甲状腺」が過剰にホルモン(T4)をつくってしまう病気です。
甲状腺ホルモンは代謝をコントロールしているため、増えすぎると体が常に“オーバーヒート”状態になります。

  • 97〜99%は良性腫瘍(がんは3%未満)(2)
  • 約70%は両側の甲状腺に腫瘍 ができる(3)
  • 平均発症年齢 13歳。性別・品種差なし(5)

猫で初めて報告されたのは 1979年と比較的新しい病気 です(1)。
当時は猫の寿命が短く、またT4検査も普及していなかったため、発見が難しかった背景があります。
日本では1990年代から症例が増えはじめ、現在ではシニア猫の代表疾患として広く認識されています。

気づいてほしい症状:「食べるのに痩せる」

甲状腺機能亢進症で特に多い症状は次の通りです(5)。
▼よくある症状

  • よく食べるのに痩せていく
  • 水をよく飲む/おしっこが増える
  • 落ち着きがない、よく動き回る
  • 夜中に鳴く
  • 嘔吐・下痢
  • 毛づやが悪くなる
  • 最も特徴的なのは
  • 「食欲はあるのに体重が減る」という矛盾したサイン です。

▼こんな行動も要注意

  • ごはんの催促が強くなった
  • 夜にソワソワ・よく鳴く
  • イライラして触ると怒る
  • 水飲み場にいる時間が長い

「年齢のせいで元気になったのかな?」と思われがちですが、代謝が暴走して元気に見えているだけ、というケースは実際にとても多いです。

▼10%は「無気力タイプ」

反対に
食欲低下・元気がない というタイプも約10%あります(6)。
腎臓病など他の病気と見分けにくいため注意が必要です。

すぐに受診してほしいサイン

以下の症状がある場合は、できるだけ早くご相談ください。

  • 明らかに痩せてきた
  • 呼吸が速い/苦しそう
  • ぐったりしている
  • 嘔吐・下痢を繰り返す
  • 性格が急に攻撃的になった
  • 心拍数がいつもより早い

放置すると 心臓病・高血圧・腎臓病 を引き起こすことがあります。

どんな検査を行うの?

診断の中心は 血液中の甲状腺ホルモン(T4)測定 です。
▼T4測定が基本

  • 90%の猫はT4上昇で診断可能(7)

ただし、初期や他の病気を併発している場合は正常値に見えることもあり、その際は

  • 遊離T4(free T4)
  • 数週間後の再検査

を行います(8)。
▼そのほかの検査

  • 身体検査:甲状腺の腫大を触知(6)
  • 血液検査:肝酵素上昇(85%で見られる)、腎機能の評価(7)
  • 血圧測定:高血圧の有無
  • 心臓検査(心エコー・心電図):心臓への負担を確認

定期検査での早期発見がとても大切

7歳以上の猫には、
年2〜4回の健康診断(血液検査) が推奨されています(9)。
理由は

  • 初期は症状がわかりにくい
  • 血液検査なら症状が出る前に発見できる
  • 心臓・腎臓への負担を最小限にできる

元気に見えても検査で異常が見つかることは珍しくありません。

治療法の種類と特徴

甲状腺機能亢進症には複数の治療法があり、
猫の年齢・腎臓病の有無・生活スタイル・投薬のしやすさを踏まえて選択します(9)。

内服薬(メチマゾール)

甲状腺ホルモンの合成を抑える治療です。
多くの猫で 2〜3週間以内に食欲や落ち着きが改善 します(10)。

メリット

  • 即効性がある
  • 高齢猫でも開始しやすい
  • 投薬量を細かく調整できる

副作用(15〜20%)

  • 食欲低下
  • 嘔吐
  • 無気力
  • 顔のかゆみ(4%未満)(11)

外科手術(甲状腺摘出術)

腫大した甲状腺を取り除く、根治を目指す治療です。

メリット

  • 成功すれば内服不要
  • 再発率が低い

注意点

  • 多くの猫で 両側に腫瘍 がある
  • 低カルシウム血症(副甲状腺の損傷)が起こる可能性
  • 全身麻酔が必要 → 高齢猫・心疾患持ちでは慎重に判断
  • 術後に腎機能が顕在化することがある

ヨウ素制限食(療法食)

ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料。
そのため、食事中のヨウ素を極端に制限してホルモンの産生を抑える治療 です(14)。

メリット

  • 投薬不要
  • 副作用が非常に少ない
  • 高齢猫でも始めやすい

デメリット

  • 療法食以外が一切食べられない(おやつ・他フードNG)
  • 効果に個体差
  • 多頭飼育での管理が難しい場合
  • 腎臓病療法食との併用が難しいこともある

治療後のモニタリングがとても大切

治療が始まると、甲状腺ホルモン(T4)が正常値へ下がっていきます。
このとき、腎臓の数値(BUN・Cre)が上がることがあります。
これは薬の副作用ではなく、
甲状腺ホルモンが高いときに“よく見えていた腎臓”の状態が、本来の姿に戻るだけ です。

なぜ数値が上がるの?

甲状腺ホルモンが高いと

  • 心拍数が増える
  • 腎臓への血流が増える

ため、腎臓の数値が実際より良く見えてしまう状態になります。
治療でT4が下がると血流が通常に戻り、
隠れていた腎臓病が見える化されるため、数値が上昇するのです(15)。

だから治療後の検査が非常に重要

治療後は以下を定期的に行います。

  • 血液検査(T4・腎臓)
  • 血圧測定
  • 心臓・腎臓の評価

特に治療開始直後は、
T4が下がる → 腎臓の数値が上がる
という変化が起こりやすく、状態を見ながら投薬量を微調整します。
→ そのため、治療開始後2〜3週間ごとの再検査がとても大切です。

まとめ

  • 猫の甲状腺機能亢進症は シニア猫で非常に多い病気
  • 食欲があるのに痩せる のは重要なサイン
  • 血液検査で 早期発見が可能
  • 治療法は複数あり、腎臓とのバランスを見て選べる
  • 治療後は 腎臓・血圧のチェックが必須

特に 7歳以上の猫ちゃん は、ぜひ定期健診をご利用ください。
「最近、いつもと様子が違う…」と感じたら、どうぞ早めにご相談ください。

監修:CUaRE どうぶつ病院京都 四条堀川
院長 吉田昌平

引用文献(1) Peterson ME. Hyperthyroidism in cats: what’s causing this epidemic of thyroid disease and can we prevent it? J Feline Med Surg. 2012;14(11):804-818.
(2) McLean JL, Lobetti RG, Schoeman JP. Worldwide prevalence and risk factors for feline hyperthyroidism: a review. J S Afr Vet Assoc. 2014;85(1):1097.
(3) Carney HC, Ward CR, Bailey SJ, et al. 2016 AAFP guidelines for the management of feline hyperthyroidism. J Feline Med Surg. 2016;18(5):400-416.
(4) Pérez Domínguez A, Santiago Tostado R, Feo Bernabe L, et al. Prevalence of feline hyperthyroidism in a laboratory-based sample of 27,888 cats in Spain. J Feline Med Surg. 2024;26(12):1098612X241303304.
(5) Peterson ME, Kintzer PP, Cavanagh PG, et al. Feline hyperthyroidism: pretreatment clinical and laboratory evaluation of 131 cases. J Am Vet Med Assoc. 1983;183(1):103-110.
(6) Broome MR, Peterson ME, Fox PR, et al. Diagnosis and management of feline hyperthyroidism: current perspectives. Vet Med (Auckl). 2015;6:85-99.
(7) Wakeling J, Elliott J, Syme H. Evaluation of predictors for the diagnosis of hyperthyroidism in cats. J Vet Intern Med. 2011;25(5):1057-1065.
(8) Peterson ME. More than just T4: diagnostic testing for hyperthyroidism in cats. J Feline Med Surg. 2013;15(9):765-777.
(9) Carney HC, Ward CR, Bailey SJ, et al. 2016 AAFP guidelines for the management of feline hyperthyroidism. J Feline Med Surg. 2016;18(5):400-416.
(10) Trepanier LA, Peterson ME, Aucoin DP. Pharmacokinetics of intravenous and oral methimazole following single- and multiple-dose administration in normal cats. J Vet Pharmacol Ther. 1991;14(4):367-373.
(11) Peterson ME, Kintzer PP, Hurvitz AI. Methimazole treatment of 262 cats with hyperthyroidism. J Vet Intern Med. 1988;2(3):150-157.
(12) Trepanier LA, Hoffman SB, Kroll M, et al. Efficacy and safety of once versus twice daily administration of methimazole in cats with hyperthyroidism. J Am Vet Med Assoc. 2003;222(7):954-958.
(13) Peterson ME, Becker DV. Radioiodine treatment of 524 cats with hyperthyroidism. J Am Vet Med Assoc. 1995;207(11):1422-1428.
(14) van der Kooij M, Becvárová I, Meyer HP, et al. Effects of an iodine-restricted food on client-owned cats with hyperthyroidism. J Feline Med Surg. 2014;16(6):491-498.
(15) van Hoek I, Lefebvre HP, Peremans K, et al. Short- and long-term follow-up of glomerular and tubular renal markers of kidney function in hyperthyroid cats after treatment with radioiodine. Domest Anim Endocrinol. 2009;36(1):45-56.