2025.07.01
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愛猫が高齢になるにつれて「最近、夜中に大きな声で鳴くようになった」「トイレを失敗することが増えた」「いつもと違う行動をとるようになった」といった変化に気づくことはありませんか?これらの症状は、単なる老化現象ではなく「猫の認知症」の可能性があります。
今回は、猫の飼い主様に
について解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、早めに対策を取ることで、進行を遅らせたり、愛猫の生活の質を保つための対策を取りましょう。
猫の認知症の最大の原因は加齢による脳の機能低下です。脳の機能が衰えることによって、記憶力や判断力といった認知機能が低下し、日常生活に支障が出る状態を指します。10歳頃から兆候が見られ、年齢と共に目立つようになっていきます。
人間と同様に、猫の脳細胞も年齢とともに減少し、特に記憶や学習を司る脳の領域が影響を受けやすくなります。
人のアルツハイマー型認知症は、アミロイドβという異常たんぱくが脳内に蓄積することが特徴です。異常たんぱくは脳神経にダメージを与え、認知機能が低下するとされています。
近年、このメカニズムが猫の認知症でも同様に起こりえることが分かってきました。研究が進展することで、猫におけるアルツハイマー病類似の病態が解明されることが期待されています。また、猫の研究は人間にとっても画期的なアルツハイマー病治療薬が登場する可能性を示唆しており、相互に研究が進むことが期待されています。
慢性的なストレスも認知症の発症要因の一つです。ストレスは脳の血流を悪くしたり、脳内で神経細胞にダメージを与える酸化物質の蓄積を増やすことで認知症を悪化させると言われています。
猫の認知症の症状は、獣医学では「DISHA」という5つのカテゴリーで分類されています。具体的な症状は以下のようなものがあります。
いつもの環境で迷子になる症状です。
具体的な症状は以下のようなものがあります。
コミュニケーション能力に変化が出る状態を指し、具体的には以下のような症状が見られます。
睡眠サイクルが乱れる状態で以下のような兆候が見られます。
排尿・排便にトラブルが出る状態で、以下のような症状が見られます。
行動パターンや活動量が変わる状態で、具体的には以下のような行動が見られます。
猫の認知症の診断は、他の病気を除外した上で行われる除外診断が基本となります。まず獣医師が病歴の聞き取りと身体検査を行い、血液検査や尿検査で甲状腺機能亢進症や腎臓病など、認知症と似た症状を示す病気がないかを確認します。
必要に応じて、視覚や聴覚を含んだ神経検査、脳のMRIやCT検査が実施される場合もありますが、高齢猫への負担や費用を考慮し、獣医師と相談の上で検査方針を決定します。認知症の確定診断には時間がかかることも多く、複数回の診察を通じて総合的に判断されます。
現在のところ、猫の認知症を完治させる治療法は確立されていません。治療の目的は症状の進行を遅らせ、猫と飼い主さん双方の生活の質を向上させることです。
薬物療法では、精神が安定し、脳の萎縮や老化を防ぐことが期待されているセロトニンの量を調整する薬や、脳の血流を改善する薬が使用される場合があります。
また、栄養補助療法として、DHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸、抗酸化作用のあるビタミンE・Cを含むサプリメントが症状の緩和に役立つ可能性があります。
環境療法も重要な治療の一環です。猫にとって分かりやすく安全な環境を整え、ストレスを最小限に抑えることで症状の悪化を防ぎます。猫の症状や生活環境に合わせて獣医師に相談しながら、調整していきましょう。
家庭での適切なケアにより、認知症の進行を遅らせ、猫と穏やかな時間を過ごすことができます。
認知症の猫が安心できる環境を作ることが最も大切です。家具の配置はできるだけ変えず、猫が慣れ親しんだレイアウトを維持しましょう。床には滑り止めマットを敷き、段差をなくして転倒や怪我を防ぎます。
トイレは複数箇所に設置し、猫が迷わずたどり着けるようにします。夜間は薄明かりを点けることで、暗闇での不安を軽減できます。
猫との適度な触れ合いは、脳に良い刺激を与えます。優しく声をかけながら撫でたり、短時間遊んだりしましょう。猫が嫌がる場合は無理をせず、猫のペースに合わせることが重要です。
知育玩具やおやつ探しゲームも脳の活性化に役立ちます。認知症の症状があっても、できたことは大げさに褒めてあげましょう。
規則正しい生活は認知症の猫を安心させます。食事や就寝の時間を一定に保ち、予測しやすい生活パターンを作りましょう。急激な環境変化は避け、新しいペットを迎えることや大きな模様替えは控えます。
脳の健康に配慮した食事も大切です。抗酸化作用のある食材やDHA・EPAを含むフードを選びましょう。フードを変更する際は、獣医師に相談して段階的に進めることをおすすめします。
猫の認知症は、11歳以上の約30%、15歳以上では約50%の猫に見られる身近な病気です。単なる老化現象ではなく、適切な理解とケアが必要な疾患です。
老化にともなう症状か、気になる症状がある場合は、早めに動物病院を受診し、適切な診断と治療を受けることをおすすめします。
現在、猫の認知症を完治させる治療法はありませんが、薬物療法、栄養補助、環境調整により症状の進行を遅らせることは可能です。特に家庭でのケアが重要で、安全な環境作り、適度なコミュニケーション、規則正しい生活リズムが愛猫の生活の質を保つ鍵となります。
認知症は長期戦です。飼い主さん一人で抱え込まず、獣医師と相談しながら、家族で協力してケアを続けることが大切です。愛猫との残された時間を、より良いものにしていきましょう。
監修:CUaRE 動物病院京都 四条堀川